その言葉に、鈍器で殴られたような衝撃を受ける。前のめりになった体は足の裏が地面に縫い付けられたみたく、それきり動けなくなった。


「出たー、サバサバナツの悪いとこ」

「まぁでも顔面キャッチはさすがにちょっと引いたよねー」

「初心者とか差し引いたとしても、ねえ?」

 体育シューズを片手に歩く彼女たちの声色が低く、嘲笑じみたものへ変わる。そこで不意にナツ、と呼ばれたチームメイトが私の存在に気付いたのか、ばちりと視線がぶつかった。

 しかし、あっさり逸らされる。


「っていうか出来ないんだったらやれるとか言うなよ。本当迷惑」

「…」

 それより昨日のテレビ見た!? と早くも新たな話題で盛り上がる彼女たちの声が遠くなる。やがて体育館からぞろぞろ出てきたクラスメイトの波が途切れ、次の授業の予鈴が鳴るまで。

 私はその場に一人、立ち尽くしていた。


 ☁︎


「………よし、誰もいない」


 その日の放課後、体育館に訪れた私はそろりと中を覗き込んだ。

  球技大会前の一週間は、当日の大会に向けて全生徒が平等なコンディションで臨めるよう、運動部の部活は停止になる。試験前じゃあるまいし、そこまで球技大会に熱を入れる学校なんて聞いたことがないけど、本校は大小問わず一つ一つの行事に力を入れているらしい。

 普段は運動部の練習で賑わっている館内もシン、と静まり返っていて、当然人の気配は感じられない。持ってきた体育館シューズに履き替え足を踏み入れると、私の足音だけが鳴る。

 学生鞄を置き、速やかに体育館倉庫の扉を開ける。しめた。鍵、かかってない。

 素早く中に入り、バスケットボールが入ったカゴを押す。重い。運動部の女子たち数人が軽々と移動させていたときは軽そうに見えたのに、なんて歯を食いしばりながらやっとのことでカゴを出すと、そこから(いく)つかフロアの方にボールを放り投げた。


「…ボールはともだち」

 自分の手のひらより大きなオレンジ色の物体。この中のどれかに今日、私を出血させた犯人がいると思うと、忌々(いまいま)しくてならない。けれど球技をするには、ボールと向き合わなければ。

 前でドリブルをする。1回、2回。足に当たる。転がっていく。無視。次のボール。2回ドリブルする。片目を(つむ)り、狙いを定める。