「聞きたいことが山ほどあるんですが」

「順序立ててどーぞ」

「この屍の山は何ですか?」


 鬼頭先生に手当てをしてもらい、頭に包帯を巻いた先輩は保健室の床でまだ伸びている数人の男子生徒に手を合わせて御愁傷様、とか言っている。片や自分のデスクの椅子に腰掛けた先生は涼しげにPC画面に向かっていて、ソファに座った私は先生に問いかけた。


「読んで字の如く自己防衛。仮病を装って突然人に飛びかかってくるから成敗してくれたまで」

「ず、随分…男勝りなんすねー」

「前例があってこそ。女ってだけで非力と思い込んだ馬鹿な男共は考えなしに飛び付いてくる。やられる前にやる、今のご時世その程度じゃなきゃやってけない」

「いや…だからって生徒打ちのめすのはどうかと」

「か、かっこいい…」

「え、オズちゃん?」


 何そのポリシーみたいなの、物凄く素敵。しかも男に負けない女性教師とか、教師はさておき私の目指す女性像そのものだ。たった二つの質問の答えで尊敬の眼差しを向ける私に、鬼頭先生は机上で頬杖をついたままやんわりと私に目を向ける。
 少しきつい印象がある眼差しも、歴戦の印なのかなあ、すごいなぁ、と惚れ惚れしていたら先生は口の端を引き上げた。


小津(おづ)凛花(りんか)、お前のことも知ってるよ」

「えっ」

 出し抜けに名前を呼ばれて動揺する。まだ、私は先生に自分を名乗ってなかったからだ。猛禽類が餌に狙いを定めた時みたいな鋭い視線が私を射ると、彼女ははっきりとこう告げた。

男性恐怖症(・・・・・)なんだって?」

「………、なんでそれ…」

「来て早々お前のクラスの担任に報告されてね。どこぞで悪さをするクソガキなんかより相当タチが悪いって。この学校の職員はよっぽどお前に手をこまねいているらしい」

「…門倉(かどくら)め」


 私の背後から届いた先輩の声に、そこでやっと担任の名字を思い出した。

 そう、名前を確か、門倉とか言った。別に悪い人ではない、普通の反応なんだろうとは、思う。私さえ普通(・・)であれば、ちょっと素っ気ないくらいのまだ若い男性教員だ。

 でも彼が異性であるばっかりに、それだけで私は先生を警戒したし、ひょっとしたらその反応が彼を苛つかせていたのかもしれない。ちょっと思い当たる節はあったんだ。あの先生、いつも私を見るときだけは他の生徒と違って煙たそうにしていたから。