片手で眉間を押さえる先輩、無表情のままの私。
少し間を置いてからもう一度扉に手をかけるも、瞬間光の速さでガシィッと、腰から取り出したマジックハンドで手首を掴まれた。
先輩を見る私。情けない顔で左右に顔を振る、先輩。
直後ガラッと扉が開いて、二人して飛び上がる。
「なんか用」
顔を出したのは、今朝見た美貌…とはかけ離れ、ほつれた髪に目の下に影を落とした新任保健医の鬼頭先生だ。
禍々しいオーラを背負った彼女は扉から顔だけを覗かせると、私と先輩を交互に見てがしがしと横髪を掻く。
「赴任早々入れ替わり立ち替わり…かと思ったら今度はカップルか。保健室はラブホじゃないんだよ」
「は?」
きょとん、と目を丸くする私たちをよそに、先生の陰った目が隣の先輩を上から下まで物色する。一通り眺めて顔に止まってから、彼女はにたりとほくそ笑んだ。
「───けどお前は上玉だな」
「い゛っ!?」
「っ先輩!?」
突如伸びてきた手にネクタイを掴まれて、先輩が扉の中に引きずり込まれる。慌てて中に続いてから私はその光景に目をかっぴらいた。
中に広がっていたのは無数の男子生徒の屍───ではなく、伸びて白目を剥いた男子生徒、数人だ。先輩が言ってた学年問わず男子生徒が殺到している、というのは本当のことだったらしい。狼狽え、さっと視線を散らすと空きのベッドで先生に押し倒されている先輩の姿が飛び込んでくる。
「…へぇ? お前が藤堂か。他の女性教員が騒ぐからどの程度かと思ったが、確かに一理ある。いい男じゃないか。お前になら押し倒されてもいいかもな」
「押し倒されてるの俺なんですけど…」
押し倒しに来たつもりが何この仕打ち、とか彼が青ざめて嘆いてもそんなのは二の次で、先生はあれよあれよと言う間に先輩に顔を近づけていく、
─────────ので。
「ぶべっ!!」
私は傍にあったクッションを先輩目掛けてぶん投げた。
「み、見苦しいもの見せないでください!」
「…てかさあ! 有愛希のときも思ったんだけどなんで俺に物投げる!?」
「きもちわるいから」
「どんな理由!?」
「さて、お遊びはここまでにしておいてと。痴話喧嘩は後にしてとりあえず手当て。していいわけ?」
白衣の天使、ならぬ悪魔っぽい男勝りな保健医・鬼頭先生は、跨ったまま先輩のおでこを指差した。



