私と向かいに立った先輩が、腕組みをしたまま私に指を差す。私は口へ運んでいた卵焼きを、思わず箸から滑り落とした。
「私の恐怖症を口実にしようってんですか? …最低」
「事実を言ってる。普通学校には不登校生なんかの心のケアの一環で、スクールカウンセラーっていう役職の人間が配属されてたりするんだよ。実際前任の福井教諭は心理カウンセラーの資格も持って、たびたびそういう生徒の相談に乗っていた」
「でも…前の先生がそうだったからって、鬼頭先生がそうとは限らないじゃないですか。なんか冷たそうだったし」
食欲を失った。なんかもうここに居たくない。たまに的を射たことを言う先輩の、今がまさにその時だ。ふざけているように見えて、彼はこれを提案するために初めからそれとなく話を持ちかけてたんだ。
「そうだけど試す価値はあるっつってんだ、俺だって力にはなりたいよ。寧ろなってるつもりでいる。けど俺が男である以上、君のそばに寄り添うのにも限界が生じてる」
「先輩はよくしてくれてます、優しさが痛いくらい。…けど今回のこれは違くないですか。頭いい人ってそーやって自分の要望人の弱みにつけ込んで正当化するんですね」
吹っ切ろうとしたら出てきた手に道を遮られる。
「ちょ、待った。今の言い方気に食わない。思ってることあんなら口に出してちゃんと言え」
「…そんな優しさありがた迷惑です」
「なんだそれ。俺はオズちゃんのことを思って」
「だから善かれと思ってる辺りが思い上がりなんですよ!」
「なんだと!?」
「危ない!! 上───っ!!」
「「ぁあ!?」」
遠くから届いた声に、二人して激情ながら空を睨む。燦々と照る太陽光に目を細めると、その隣から何か白い玉が空から豪速球で振っ───
「バカ避けろ!!」
「!?」
直後、先輩が私を突き飛ばし───ずがん、と言う鈍い音が周辺に響き渡った。
☁︎
「な───────んで」
こうなるの?
私のハンカチを血が滲む右の額に当てた先輩は、不服そうに呟いた。その左頬には、私が蹴っ飛ばしたせいで上履きの痕が付いている。