「オズちゃん」

「はい」

「保健室に行こう」

「嫌です」


 な⤴︎ん⤵︎で⤴︎!? と小さい子どもみたいに駄々をこねる先輩に、はああ、と深いため息をつく。
 時刻は昼休み。中庭のベンチでお弁当をつついていたお箸で、私はビシッと先輩を指した。


「下心見え見え」

「俺ってそんなわかりやすいんか…」

「いや逆にわかりやすくないと思ってたんですか?」


 アホなのか、と反芻する私をよそに正面でヤンキー座りをしていた彼がこてん、と(こうべ)を垂れる。

 朝の全校集会、体育館内に起こった衝撃は正に青天の霹靂、そのものだった。
 入学してまだ一ヶ月の私は前任の福井先生とやらを詳しくは知らない。が、生徒の怪我や体調不良はもちろんのこと、思春期特有の悩みに関しても親身になって相談に乗ってくれる心優しいひとだったというのは、全校集会の帰りに上級生が話しているのを聞いた。

 そんな中タッチ交代で現れた女性保健医・鬼頭(きとう)先生は、全男子が理想とするプロポーション・美貌・なんかつれなさそうな態度、を兼ね備えた男のロマンの集大成……というのは、さっきからあれこれ呟きながら人の隣を立ったり座ったりしている藤堂(とうどう)先輩のお言葉だ。


「落ち着いてください。ていうか行きたいなら一人で行けばいいじゃないですか」

「あのな、意味もなく保健室に行ったって門前払い食らうだろ? ましてや今朝の衝撃の登場。オズちゃんも目の当たりにしただろう、あれ以降保健室には学年問わず男子生徒が殺到してるというもっぱらの噂」

「既に出遅れてるじゃないですか」

「いや待ってる。彼女は俺を待ってるね。“数々の男子生徒(モブ)は来るけど気になる学校1のプレイボーイはまだ来ない……彼はいつ私を迎えに来てくれるのかしらああっ、気になって夜しか眠れない…!”って具合にな」

「夜寝てたら十分です」

 あと自分でプレイボーイとか言うなよな。隣で繰り出される迫真の裏声演技には目もくれず、ミニトマトのヘタを思わずぺっと地面に吐き出してしまった。

 イラついて吐き出したそれを拾おうとしたら、地面を這う蟻がそれをせっせと運び出したから、私は手を引っ込める。


「だからこそオズちゃんが必須ー。俺とオズちゃんのコンビだったら相手も警戒しないだろうし、何せこっちには正当な理由がある」

「理由って?」

「昨今、君を悩ませているトラウマ問題」