嫌だ。いやだいやだいやだ。


—————————————誰か、




「お——————っまたせ~!」


 ぎゅっと目を閉じた時だった。

 ナンパに勤しむ大学生三人と、その被害をもろに受ける女子高生。そのシチュエーションにはあまりにも不釣り合い過ぎる明るい声色で駆けてきた青二才。

 誰だ、この男は。こんな奴知らない。ましてや男性恐怖症(・・・・・)の私に待ち合わせをする異性などいるはずない。


 ただ二つほどわかったのは、

 その男が端正な顔立ちをしていたということと、
 私と同じ高校の制服を着ていたということ。


「ったーく探したぞ真緒(まお)~、遅刻したからって怒って帰っちゃうことないんじゃないの?

 あれっ! そちらさんもしかすると道案内の方ですか!? 助かりますこいつほんっと方向音痴ですぐどっか行っちゃうんですよ! ご親切にどうもありがとうございます~」

「えっ、あっ、いや…」

「はぁ? 男連れかよ…だったら初めからそう言えよな」


 これ見よがしに舌打ちをしては、睨みを利かせて去っていく男たちの理不尽さったらない。勝手に勘違いをしたのは、そっちじゃないか。
 片や、駆けてきた優男は私の隣に立って笑顔でひらひらと手を振り返している。

 そうこうしてる間に、私に絡んできた男たち三人はやがて遠のき、見えなくなった。


「大丈夫?」


 なんの前触れもなく落ちてきた雨のような感覚に、私はぴゃっと肩を揺らす。抱き締めていた学生鞄は、抱く力のあまり原型を留めていない。震える肩に気づかれないよう、そろりと一歩退いた。

 ついでのように、忘れかけていた返事の代わりに、こくこくと頷く。

「この辺のこの時間は、女の子の一人歩き危ないよ。

 暇な大学生が女の子目当てでウロついてるって話。女子高生ターゲットにせんでもキャンパスでナイスバデーのお姉さんいそうなのにね~、俺も紹介して欲しいっての」