『きみ、女子の成績首位?』


 あたしが初めてそいつの存在を知ったのは、高校に入ってから一年が過ぎたときのことだった。

  脳神経外科医の父と、内科医の母を持つ家は生粋の医療一家で、その二人の間に生まれたあたしは祖父母や親戚から聞く話によると、それはそれは手塩にかけて 育てられたらしい。物心ついたときから期待されていた。その期待に答えようと必死だった。遊びに行きたい気持ちを押し殺して、個別教師の塾に通って、家庭教師もいて。思えばあたしの人生はがむしゃらの割に、中身なんてなかった。それでもよかった、それで家族が、周りが笑ってくれるなら。

 でも、叶わなかった。

 私の高校受験失敗は結果として両親、それ以外の人間の期待を裏切ることになり、滑り止めで受けた高校に入学しても、もう両親や親戚があたしに、夢や希望を語ることはなかった。どうでもよかった。もうどうでも。

 その割にあたしに残されたのはそんな時でも勉強しかなくて、入学当初から守り続けていた女子の成績首位の掲示板を見上げるたび、虚しさがこみ上げていた。

 学年2位。この文字を見るたび、あたしの人生を突きつけられているみたいで死にたくなる。


『………あんただれ』

『藤堂真澄。いつも君の前にいる』

『は?』

『掲示板の話』

 指差されて、今一度掲示板を見る。そこには学年1位のところにもう何度となく見慣れた“藤堂真澄”の文字があって———…いや、ちょっと待て。


『あんたが!?』

『お、ナイス反応。しかし君も凄いね』


 藤堂真澄。文字でしか見たことはなかったが、もっとガリ勉野郎だと思ってた。それが何だ、実際は背の高い、垢抜けた、すごく健康的な見た目。しかも二枚目ときた。一度見惚れかけて、意識を取り戻す。


『………意味なんてない、1番じゃなきゃ』

『ほーかぁ? 価値はランクじゃないと思うけど』

『あんたにだけは言われたくない』

『俺は関心してんだよ』


 低いトーンで言われ、その声の変わりように怒らせたのかと、隣を見上げる。でも、彼は怒るどころか、満面の笑みでこう言った。



『すごいじゃん、安斎』



 その時になって、やっと気付いた。
 ああ、そうかあたしは。

 ずっと誰かに、認められたかったんだ。