「…こんな風にしか自分の本音形に出来ないなんて。迷いがあるならやめればいい。気付いて欲しいなら言葉にして伝えればいい。
 こんなまどろっこしいやり方で、自分の評価下げてまで。誰かが気付いてくれるのを待ってる貴女は、虚勢を張って生きてても自分1人じゃ何も出来ない、ただの意気地なしだ」


 揺れる、安斎有愛希の目と目があう。私が目を逸らさないでいると、隣の親衛隊が呆れたように言う。

「………は?何こいつ訳わかんないこと」

「———あんたに」
「!」

「あんたにあたしの何がわかんのよ!?」

 近くにあったアルミバケツを引っ掴み、それを私の真横にぶん投げる。ギリギリ当たりはしなかったけど派手な音がトイレに響き、思わず身を縮こめる。仕舞いにはデッキブラシを掴み振り上げた時には、取り巻きも逆上した彼女に気がついて慌てて彼女の腕を掴んだ。


「ちょ、有愛希落ち着い」

「男子!! 外にいるんでしょ!? さっさと来てこいつ何とかして!!」

「有愛、」

「—————はや、」

 く。


 言い切る前に、いつの間にか彼女の背中に立っていた1人の男子生徒が、彼女のデッキブラシをパシリと片手で受ける。

 視線を伏せたままのそのひとが軽く顔を上げた瞬間、その場にいた全員が戦慄した。




 先輩。藤堂先輩だ。

 予想もつかない人物の登場に、親衛隊一同は身動ぎ一つ取らず硬直している。しかし、やがて吹っ切って1人がパッと顔を上げた。

「や、やだ~藤堂何考えて、ここ女子トイ」

「だから?」


 冷静な低い声。普段からは見当も付かない冷たい声に、もう誰も何も言わなかった。