「藤堂おまえ、タイミング悪いよ」 

「いやだぁって」

「大丈夫? これ、おしぼり」

 スッとおしぼりを差し出されて手を伸ばす。そこで、手を見て思わず引っ込めた。だめだ。まだ。やっぱり、私、まだ全然、

「オズちゃんは生意気娘だから投げるくらいでいいのデース」

 受け取るのを渋る私に、正面からべすりとおしぼりを投げつけられる。構わず味噌汁を啜る先輩を前に、おしぼりは私の顔面に当たったのちぽとりとスカートの上に落ちた。………この野郎。

 ほぼボルテージ最大値に達した怒りゲージをすんでのところで押し留めて低く、声を絞り出す。

「………み、水溜まりに突っ込んで失くした」

「ぶっは! 何それすげーバカ」

「誰のせいだと思ってんだ死ね」

「人のせいにすんな生意気八つ当たり娘」

「まぁまぁ黙って静かに食えよ! 藤堂も茶化さない!」

 真っ赤になって白ごはんを口の中にかきこむ。
 ああ、これだから人と食べるのは、大勢の中で食べるのは、先輩と食べるのは嫌だったんだ。
 複雑な面持ちで、もやもやしながらから揚げを箸でつまんで口に放り込む。

 噛んだ瞬間肉汁が溢れ出して、思わず笑顔が溢れる。そのときばちっと先輩と目があって、つんとそっぽを向いたら私のプレートの上に卵焼きを乗せられた。

「これも美味いから。食ってみ」

「…」

 図らずして、本来お昼食べる予定だったおかずがここで揃うなんて。からあげを飲み込んだあと、渋々言う通り卵焼きを口に入れる。もぐもぐと味わって、ごくんと飲み込むと。

「な、美味いだろ」

 また子どもみたいに笑う先輩に、私は小さく呟いた。


「………ふつう」