食堂に来ても定食を頼んで端っこの方でひっそり食べようだなんて魂胆は、先輩に見つかった時点で脆くも崩れ落ちてしまった。いつも中庭の木陰でひっそり食べているだけに、人のごった返す食堂は恐ろしい。

 危うく周りを行き交う男子生徒にぶつかりそうでびくびくしていると、比較的空いたゾーンに席を取った先輩がこっちこっち、と手招きをした。


「珍しいね、オズちゃんが食堂なんて。つーか何気に初じゃない? 今日は弁当じゃないんだな」

「私が食堂来ちゃダメなんですか」

「誰もダメとは言ってないけど…てか髪にご飯粒ついてんだけど大丈夫? わんぱくなの?」

「ファッションですね。今流行ってるでしょ、少女漫画で髪の毛にかりんとう付けたりするやつ、これが男心くすぐるそうです」

「くすぐらねー! まんじりともそそらねー!」


 さてはお弁当食べたのに足らなかったんだな食いしん坊! とか叫んで正面に座る先輩の言葉に、ちくりと胸が痛む。違うのに。とっさにはぐらかしたのもちょっと無理がありすぎるしなんだファッションて。普通に心配になるわ。

 黙ってからあげ定食を置くと、先輩の隣にまたしてもさっきの茶髪が腰かけて身構えた。


「あ、ごめん遅ればせながらこいつ、智也(ともや)江坂(えさか)智也ね、前話したろ? 俺の親友で恋人の」

「えっ」

「あ、無視で構わないから」


 笑顔で告げると、茶髪は先輩の横っ腹を肘で突く。それが見事脇に入ったのか悶絶する先輩に、彼は構わず手を合わせる。本当に仲良いんだな、さすが先輩の扱い方わかってる、見習おう。
 そんなことを思って手をあわせると、パキッと割り箸を割った。


「で、さっきの質問の返事」


 ついこの間まで、男の人と話すことは愚か、食事なんて滅相もない状態だったのに。人のごった返す食堂で、しかも向かいに男子高生がいる状況でなんて、物凄い成長ぶりだ。私こんなこと出来るんだ、と思う反面、やはりいつもよりは落ち着かず、手は震えていた。

 加えて、味噌汁を啜っている途中で投げかけられた質問にゲホッと噎せ返る。