「ほんじゃ、プロポーズ成功ということで」
「どぅえ!?」
に、と笑った先輩に余韻に浸る間も無くひょい、と片手で軽々と持ち上げられて、思わず彼の肩にしがみつく。やがて屋上の奥、桜がかかる柵の手前にやって来ると、グラウンドにピンク色の風船を持った在校生の人だかりが見えた。
その数は全校生徒だろうか、列を成していないまるでバラバラの集団なのに、地上に咲いた桜にも見える。
「わぁ…! すごい、なにこれ…!」
「あり、オズちゃんバルーンリリースって知らないの? うちの卒業式名物。中に特殊な種が入ってて、これを飛ばすと枯れた大地に新芽が出るんだ。因みに卒業生は贈られる側なんで在校生限定」
「うそ、私もやりたかった!」
「というと思って持って来やした」
ほい、と紳士がお姫様に手を差し伸べるような所作で風船を渡されて、きょとんと先輩を見上げる。でもそれは一つしかないようで、先輩の手を取って同じように握らせて微笑んだら、下であーっ! と声がした。
柚寧ちゃんに、児玉さん。遠くには天の河や、安斎先輩の姿が見える。
「藤堂先輩みっけー!」
「凛花ちゃんも!」
「プロポーズの結果はー!?」
「———そりゃあもちろん」
頭の上に大きな丸を作って満面の笑みをこぼす先輩に、下から指笛や盛大な冷やかしが聴こえてくる。それが恥ずかしくて先輩の腕をバシッと叩いたら、嬉しそうに振り向かれた。
やっぱり先輩は、笑ってる顔が一番素敵だ。強くて、弱くて、でもものすごく人間らしいこの人と、私はこれから生きていく。
号令で青空に羽ばたく無数の風船に、ひとりで泣いていた私たちはもういない。手を離して、桜と風船が行き交う空を見ていると、ぱち、と先輩と視線がぶつかった。
優しい手が、そっと私の横髪を耳に引っ掛ける。
「…オズちゃん、もっかいキスしていい?」
「やだ」
「えぇ…」
「なんてね」
ぐい、と先輩のネクタイを引っ張ってその唇に口付ける。驚いたように目を瞠った先輩に少し離れて得意げに笑ったら、やったなーってほっぺたをつままれる。
桜舞う、誰もいない屋上で。
それから私たちは、どちらからともなくキスをした。



