「やば、ほんとに転けたよ」

「だっ…さ」

「ちょっとみじめー。かわいそうだって~」


 クスクスと上から笑い声が降ってきて、むくりと起き上がる。そうしてる間にも声は私を取り囲み、顔を上げるとそこに、見知らぬ女子数名と、昨日私を突き飛ばした安斎有愛希が立っていた。


「ねぇ大丈夫ぅ? 手ぇ貸してあげよっか」

「…」

「無視してんじゃねーよ」

 立ち上がろうとした矢先、肩を足で蹴飛ばされた。性懲りも無く地面に抱き着く私の頭部に重みが乗り、額がコンクリートを舐めてから足で踏み躙られているんだとわかる。


「聞こえてまちゅかー」

「わっは! 有愛希やーばいってそれは」

「動画撮って、動画」

「がってーん」

「やめ…っ」

「ねー。何探してるの? よく身の回りは探した? 探し物ってさ。案外近くにあるもんだよ」


 言って、安斎有愛希は取巻きの1人に合図する。するとその1人がぶら、と私の視界の横にそれをぶら下げた。———私の学生鞄だ。


「中よく見た? 底とか、裏とか、足ちっさいからさ~ポケットにでも入ってんじゃない」

 いやそれはないっしょー、とか笑いながら、安斎有愛希は私の鞄を物色する。いつどのタイミングで奪われたのだろう。まさか嫌がらせの為に、彼女たちは私の教室にまで行って鞄を取ってきたのだろうか。どこまで暇人なんだ。


「やめてよ!」

「勝手に喋んなよ」

 背中を膝で押さえつけられているせいで起き上がれない。軽く抵抗しただけなのに髪を引っ張られて、生理的な涙が浮かぶ。

 そんなの勿論御構い無しで、鞄の中に入れていた音楽プレーヤー、風船ガム、水筒、お弁当箱。それらを一通り私の目の前でひっくり返すと、空になった鞄を取り巻きは中庭の花壇に放り投げた。
 視界いっぱいを、転がってきたお弁当箱に埋め尽くされる。彼女は最後それに目をつけると、私の上でそれをぱかりと開いてぶちまけた。


「あ、ごめんこん中にもなかったわ」


 冷たい感覚が首元をかすめて、びちゃ、と何かが頭にかかった。白ごはんに卵焼き、からあげにブロッコリーは私の背中で踊ったのち、力尽きてコンクリートにとっ散らかって砂まみれになる。


「………だから言ったでしょ、絶対後悔するって」