呆然とする智也と、藤堂と。奈緒子は同じ反応を示した。

 一度驚いたように目を見開いて、そして眉根を寄せ、きゅっと唇を噛みしめる。そこにいたのはそう。泣きたいくらい愛おしい、


 愛おしかった(・・・・・・)、彼女。


 藤堂が先に踏み込み、ベッドの端に腰掛ける。正面から実に約三年ぶりの姿を見て、奈緒子の目に涙が膨らむ。藤堂は微笑み、片手でそっとその横髪を軽く()いた。


「…おはようさん」

「………おはよう」
「どんだけ寝てんのお前」
「ちょっと、寝不足だったから」


 気恥ずかしそうに冗談めいてはふわりと笑って、でもにわかにくしゃりと潰れる。それを全部悟ったように、藤堂の手が奈緒子の頭の上に乗る。


「…ずっと、真っ暗で…ひとりで。それでも、起きたら、目が覚めたら…、伝えなきゃって、ずっと思ってたことがあるの」

「…うん」
「———…真澄(ますみ)、私、」


「智也のことが好きなんだろ」


 藤堂の返しに、奈緒子が硬直する。それは扉の前にいた智也も同じだった。


「俺と喧嘩して智也に相談に乗ってもらってる内に、奈緒子。おまえ自身も智也に惹かれ始めてた。そうだろ?」


 諭すような優しい問いかけに、奈緒子の顔が次第に、涙でずぶ濡れになる。目を見ていられず、それでも懸命に前を向こうとして左右に首を振る彼女に、向かいの彼は眉を下げて強く笑う。


「…知ってたよ。お前の気持ちがもう俺にないことくらい、ずっと前から。あの日、事故に遭った日、お前はわからないって逃げ出したけど、俺はそれを伝えようとしてたんだ」

「…っ」

「俺も同じだ。
 守りたいひとが出来た。お前じゃない(・・・・・・)

「…ごめんなさい」
「謝んなくていいよ」

「ごめんなさい…!!」


 ベッドの上で泣き崩れる奈緒子から離れる藤堂に、入り口で立ち尽くしていた智也は目を瞠ったまま口を開く。

「…藤堂、おまえ」
「ヒーローとかエキストラとかなんかよくわからんけどさ」
「!」
「俺にとっては、智也」


 桜木の下で俺を救ってくれたあの日から。





「お前が一番のヒーローだったよ」





 そのまま横をすり抜ける藤堂に、ぽろ、と目から涙が零れる。そして頻りに泣きじゃくり続ける奈緒子に駆け寄ると、愛おしい彼女を強く、

 目一杯抱きしめた。