「おっはよー!」

「ミキおはよう久しぶり〜! 第一志望受かったんだって!? おめでとう!」
「ありがとう! やー待ってマリナ超久々じゃん泣けるんだけど」
「ユリ髪やばい金髪! 不良か!」
「しまったー! 黒染めスプレー忘れてきた教頭にドヤされる!」



 3月初旬。

 それぞれ受験等の兼ね合いにより自由登校令が敷かれていた三年生にとって、全生徒一律の登校日は、ここ数ヶ月過疎化していた教室に久々の活気をもたらした。
 早々に進路が決まり髪色を変えた者、自分磨きに徹底している者、風邪をこじらせた者、結果を心待ちにしている者。

「おれぜえったい落ちた気ぃする…無理だわ…お先真っ暗だわ落ちたら卒業式来ないごめん」
「お前試験終わってからそればっかだな」

「———藤堂(とうどう)!」

 突如、開け放たれた3-Bの扉にクラスメイト全員が振り向く。教室の一角で世間話に花を咲かしていた藤堂は、息を切らしてぐっと唾を飲み込む、

 智也(ともや)に振り向いた。



「………奈緒子(なおこ)が」



 目を、覚ましたって。








 ☁︎


「今朝、千賀子(ちかこ)さんから連絡があったんだ」


 東京都立総合病院。

 人で行き交う病院のロビーで受付を済まし、にこやかに微笑む看護師に会釈をする。そこで、タイミング良く降りてきたエレベーターに乗り込んだ。


「本当は二ヶ月前に目を覚ましてたそうなんだけど、おれたちの受験とか。何より奈緒子の心理状況考えたら落ち着くまで声かけないでおこうって思ったらしい」
「そっか」

 エレベーターの箱の中、文字盤を見上げながら立つ藤堂と、その隣で腕組みをする智也。いつもは気にしない時間の経過が、今日は偉くゆっくりに感じられる。
 

「…しっかし、久しぶりだな智也。元気してた?」

「見ての通りだよ」
「相っ…変わらずかわいくねー…。

 こっちは大変だったんだかんな、親の(かたき)かってくらいしこたま殴りかかってくんだもん、幸い次の登校日には怪我、ほとんど治ってたから適当言ったら誤魔化せたけどな」

「日頃の(うら)(つら)みが体言化した結果だ」
「おい」