「…よし」




 12月25日、当日。

 自分の部屋の全身鏡で格好を見直し、こくりと頷く。

 花の刺繍が散りばめられた白のもこもこニットに、黒のタイトスカート。上にライトベージュのチェスターコートを羽織ると、耳につけたリボンのイヤリングが揺れた。

 赤リップつけ過ぎただろうか。マスカラの量の度合いって?

 なにが正解かわからないまま鏡の前であれこれ繰り広げてそれでもこく、と頷くと、ショルダーバッグを提げて一思いに部屋の外に出る。
 たんたんと階段を降りると、ちょうどリビングから出てきたお母さんと鉢合わせた。


「…あら。またおめかしして。デート?」

「…うん」
「…藤堂(とうどう)くん?」


 うん。

 頷いた私に、ふとお母さんの手が伸びる。いつもならそのまま頬をつねって、小憎たらしい小言ばかりを述べるお母さんが。両手で私の頰を包み込むと、素直に、やわらかく笑った。

 お母さんの手、あったかい。


「大丈夫よ、ちゃんと可愛いから。気をつけて、あまり遅くなりすぎないようにね」

「…うん」


 人生初のだめ押しなしのいってらっしゃいに、こんなに背中を押されるなんて思ってもみなかった。お母さんに軽く手を振り返すと、私は勢いよく家の玄関の戸を開けた。










 ☁︎


(…人、いっぱいだ)

 冬休みに入った影響か、街に繰り出すとクリスマスムード一色の世界は若者でごった返していた。

 短縮授業に、終業式。冬休みに入る前の手はずは道行く学生と同じだったはずなのに、先輩に約束を取り付けてから今日に至るまで、ずっとこの日のことばかり考えていたから今ひとつ冬休みに入った実感が湧かない。休みの出だしが祝日だった、というのも原因の一つだと思うけれど。