「きみの言葉はまだ、あの人に届く距離にある。

 躓いて、転んで、投げやりになって、
 逃げ出したくなって、
 いくらここにいたくなくなっても。

 今まできみが向き合ってきたものは、
 君を見捨てていなくなったりなんかしない。
 常葉さんも、児玉さんも、僕も」


 それから藤堂先輩も。


「行きな。僕はもう大丈夫」


 繋いだ手が、するり、解ける。


「…ありがとう天の河」


 あなたがいたから、こんな臆病な私と私自身が向き合えた。弱い自分のまま、終わらないでいられた。私は変わろうと思えたんだ。


「ありがとう」


 泣かないと決めた心は代わりに、あなたの前で強く笑った。頷いた天の河の姿をその目に焼き付けて、背を向ける。

 すんと鼻を鳴らして握りしめた手は、駆け出した脚は、もう二度と迷わないと心に誓って。














 彼女の背中を送り届け、心は生きてきた中で1番、と言えるほど晴れやかだった。ベンチの背もたれに体を預け、すう、と息を吸った直後。それとは反対に、背中から深い、深いため息が届く。

 お互い背中合わせで、顔も見えないのに、別々の場所を見ているのに、何故か想いは同じ場所にあった。

「ねえ」

 前を向いたまま、僕は静かに問いかける。


「どうしてきみが泣くの?」

「…しおみんが泣かないからだよ」

「…何それ」


 変なの。

 ぐす、と頼りない声を漏らす彼女の声を聞いて、僕は笑った。