澄み渡った青が、冬の空一面に広がっていた。

 私から連絡しようと思ったのに、スマホを見ると「話がしたい」と天の河(あまのがわ)からメッセージが届いていた。私も放課後彼の部活に顔を出そうとしていたから先を越された。話したいことがある。私も同じだ。

 あなたに伝えなきゃいけないことがある。




 待ち合わせの大王公園に着くと、その姿がもうあった。

 ベンチに腰掛けた天の河が一度視線を伏せて、私を見つけて目を合わせる。私の足取りはもう軽く、すぐに彼の前に辿り着いた。


「…お待たせ」


 失恋の道。
 濡れた土の香り。
 命を繰り返す木々。

 突き抜けるような青。


 今も臆病な私を見守ってくれる、そのどれもが、私の捨てきれなかった世界の全て。


「…偶然。私も話がしたいと思ってた、あなたと」

「…うん」
「…天の河、」
「手、」

 握っていい?

 どこか甘えるように下から小首を傾げたその目が、頷く前に手を取った。きゅっと、優しく、それでいて今までにないくらい力強く。だめ。ちがう。この手に甘えちゃだめだ。

 振りほどかなくちゃだめだ。


「…天の河、私、———…私ね、」

「好きだよ」


 鼓動が跳ねた。はっとして顔を上げる私に、天の河はやわらかく微笑む。


「出会ったときからずっと、ずっと好きだった」
「…」

 でも今はもう違う。

「僕は、
 藤堂先輩を好きな凛花ちゃんのことが好きなんだ」


 欲しいのは僕に揺らぐ君じゃない。


「そんなきみもういらない」

「…」
「ごめんね」


 左右に首を振る。唇を噛み締めて小刻みにそうすると、天の河の手が頰に触れた。下から私を覗き込んだ強い瞳が、やわらかく微笑んだまま顔を傾ける。