思わずざく、と白身魚のフライをお箸で(つんざ)いた。


「柚寧ちゃんに何がわかるの」

「わかんないよ。わかんないから聞いてんじゃんほんとなに考えてんの?」


 藤堂先輩に捨てられたから幼馴染みにすがってるおろかで醜い悲劇のヒロイン気取りとかまじウケる、と言われて何も言い返せなかった。私も私が何をしたらいいのかもう見失っていた。だめなのはわかってる。自分が情けないことも。でもどうしたらいいかわからない。安斎(あんざい)先輩にあんな風に発破をかけられて、柚寧ちゃんにもオブラート0で喧嘩を売られてもそれでも前に踏み出せない。

 弱虫だ。臆病だ。私は私が、だいきらい。



「…っはー。もーやだやだ湿っぽいのほんとむりー。今の凛花ちゃんって自分見てるみたいでイライラすんだよね、あ、もちろんルックスは全然ゆずが圧勝だけど」

「…ごめん」

「別に謝ってほしいわけじゃないんだよ、たださなんでそんなこんがらがって一人でうじうじしてんの? 単純なことじゃないの? 自分で勝手に拗れてんじゃないの? ってこんなこと授業中に考えさせられるこっちの身にもなってみてって感じなのね。ま、いーよ別に拗らせてるんならそれはそれで、どっちつかずでうかうかしてたらゆずがどっちも奪っちゃうかんね」


 ごち。と合掌して手早くお弁当箱をたたんで軽快な足取りで歩き出す柚寧ちゃんに、私は俯《うつむ》いたままだった。

 足音が遠ざかっていき、でも消える間際で立ち止まる。



「嘘をやめればいいと思う」

「…え」

「自分誤魔化すからしんどいんだよ。揺るがない気持ちがあるんなら、それに正直でいいと思う。そしたら自ずと道も開けてくるんじゃね」

 知らんけど、って付け足して、今度こそその背中は見えなくなった。










 ☁︎


「では、今日の選択家庭科ではクッキーを作りまーす。
 各班、テーブルに生地があるので黒板の記載通り混ぜて作ってみてください」


 5限目、家庭科室。三角巾にエプロンをまとった私は、教員の指示を合図に、生地の入ったボールを手でこね始める。三ヶ月に一度か二度の割合で組み込まれるごく僅かな家庭科の授業は人気が高いとかで、春、えんぴつを転がして選んだ私はすっかりその気ではなかったのだけれど。

 まるで餅つきのように合間に繰り出される児玉さんの手は、偶然重なった選択授業の奇跡に嬉々として活発に動く。


「ココアパウダーを入れてチョコクッキーを作ってくれてもいいでーす、シナモンにナッツなど、ぜひ工夫も加えてみてね〜」