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「…あれ」


 TVを付けるでもなく、食卓でぼうっと咀嚼(そしゃく)していた時だった。普段なら自炊するところを、その日は面倒で夜の面会の帰りにスーパーで弁当を買って、食べていたのだが。

 箸で鶏の甘辛煮のような具を掴んで、一度置く。

 もう一度首を傾げて口に含んで、動きを止めた。血の気が引いた。弁当をひっくり返して台所に向かい、塩を手のひらに乗せて舐めてみる。同じように常備していた調味料の一通りを出して口にしてみて、手が震えた。


「………なんで」


 得体の知れない何かに自分自身を侵食される気がして、それ以来食事はあまり喉を通らなくなった。

 食べても数時間後には寝付けないほどの吐き気に見舞われて、それが家ならまだいい。学校でも同じ状況に苛まされると、異変に気が付かれてしまう。それは絶対にあってはいけないこと。




(…大丈夫)


 せり上がってくる吐き気にベッドの中で蹲って、自分に言い聞かせて見ては生理的に浮かぶ涙を堪えた。そんな日の夜は至極長く、朝は永遠のように遠い。










【味覚障害】

 主な症状…味が薄い、又はまったく感じられない
      口の中で苦く感じられる

 原因…病気、生活習慣、過剰なストレス








「藤堂ってば」

「うお」
「何回も呼んでるのに…スマホで調べ物? 珍しいね」

 急に目の前に現れた智也の姿に、検索していた画面を閉じスマホを伏せる。勘のいい友人だ、知られて迷惑をかけるわけにもいかない。一番辛いのはこいつのはずで、その前に立とうとしてるなんて単なる傲慢だ。

「ねえ、聞いてる?」
「え、ん?」
「…午後1体育だから着替えないと。てかお前…なんか痩せた?」



 あと、目の下クマ出来てるよ。