「藤堂先輩のことが、好きなんですか?」
言った瞬間、目の前の彼女が明らかにたじろいだ。狼狽えた彼女は腕組みを解くと、眉根を寄せて言葉を探す。
「…、は?」
「…やっぱりモテるんだな、あのひと」
彼と私のありもしない噂が浮上してから何十回とされた誤解の一つだと思い、もううんざりしていた。またか、と肩をすくめ、ため息をつき、馬鹿らしい、と思ったら無性に腹が立ってきた。
でなければどうして、確かに言葉を選ばない節のある私が、意味もなく挑発的な言葉を誰かに向けただろうか。
「…好きなら、好きだから、近づくなって言えばいい。
私のためを思ってるふりまでして回りくどい言い回しする必要ないと思います。だって目につくもの一つ一つ拾って喧嘩売るなんて時間の無駄だし、」
思い切り息を吸う。
「なんだか無様だ」
「ぁ゙あ゙!?」
自分の見解を口にして並べてから、とんでもない失言を零したことに気がつく。はっとした時には逆上した相手に思いっきり胸ぐらを掴まれて、渡り廊下の扉脇に叩きつけられる。
その時だ。薄目で見た視界の隅に、棒立ちになっている男子生徒の姿が見えた。
「こら!! お前らそこで何やってる! もう午後の授業始まるぞ早く教室戻りなさい!」
渡り廊下の向こう岸から聞こえた先生の怒号に、彼女は舌打ちをすると乱暴に私を突き飛ばす。
「…人が優しく言えばつけ上がりやがって」
扉にぶち当たり、打ち所が悪かったのか全身の力が入らない。見上げた先、霞んだ視界の真ん中で、私を見降ろした彼女が震える拳をきつく握りしめていた。
「絶対後悔するから」