「まぁまぁ! お二人ともあれだけ詰め込んでましたし結果も出てますし大丈夫ですよ! 今日は数Aと生物とか、理数教科連続してたんでそう感じるだけですって」

「…ずるくない? るいるい普段こんなだけどちゃっかり成績はいいもんね」
「多分90は超えてくるね」
「教えるの下手くそなくせにね」

「柚寧さんにはもうお教えしません…!」


 ショックを受けて眼鏡の下に両手を滑り込ませる児玉さんは、私の肩でめそめそと泣き真似をする。だって下手くそなんだもん、と口を尖らせる柚寧ちゃんのやりとりからして、まるで収拾のつかない幼稚園生のやりとりだ。てか今時幼稚園生でももっと上手くやるだろう。

 児玉さんの肩をさすってやりながら、顔を逸らしてマスクの下でけほこほと咳をする。

「…凛花さん、風邪の具合はどうですか?」

「市販薬飲んでるから割とマシだよ」
「鼻声は健在だけどね」


 小学生くらいまでは風邪を引いたら翌日には扁桃腺を腫らしてすぐ熱を出すタイプだったから、一度は病院での受診を挟まないと風邪は治らないと思ってた。

 でも今は市販薬で偉大な効果があるものだ。あの頃から時代が変化したのも1つかもしれないが、咳や痰は絡んでいるものの試験だけの短縮授業で早々に帰宅・早寝を心がけているのもあってか。初日より症状は緩和されている。


「でも、油断は大敵ですよ。完治まで気を抜かず、養生に努めてください」

「ま・でもこれで試験のヤマは越えたことだしー。明日(ラスト)オーラルコミュニケーション(OC)なんて無いも同然だから帰り甘いもの食べてかーえろ」
「柚寧さん聞いてましたかわたしの話」
「え? じゃあ買い食い」
「一緒です!! そもそも我々には凛花さんを自宅最寄り周辺まで送り届けるという大務が」


「凛花ちゃん」


 二人のやりとりを苦笑いで聞いていた時だった。突然の声かけに、立ち止まる。すると、昇降口の靴箱に背中を預けていた天の河が正に今、私を見つけて身を乗り出すところだった。
 彼は私の両サイドに立つ二人を見ると、意を決したように口を開く。


「…ごめん、今日、凛花ちゃん借りていい」

「「え」」
「僕が家まで送るから」


 何だそれ、聞いてない。反論しようとして身を乗り出した瞬間、くっと気管に空気が入って咳き込む。


「わお。お二人いつの間にそんなことにー。でもそゆことなら合点承知。さ、お邪魔虫は退散と言う名のパンケーキルートへレッツゴー」

「ちょぁっ!? えっ、柚寧さんわたしまっすぐ帰りますよ!?」
「はい見えない聞こえなーい」