いつもなら教室で迎える、午後の授業の予鈴。

 授業開始のチャイムと共に慌ただしく戻ってくるクラスメイトを見て、もっと余裕持てばいいのに、といつも思っていたけれど、私がそっち側の人間になる日が来ようとは。


「ごめんね、急に呼び止めちゃって」


 私を呼び止めたのは顔も知らない女子だった。背中まで伸びた長い黒髪に、すらりと伸びた手足はモデルみたいに長く、髪を後ろに掻き上げる仕草ひとつで、整った目鼻立ちがよくわかる。こんな綺麗なひと知らない、いや、嘘。

 前に双眼鏡で覗いていたとき、見かけたことがある。


「ずっと藤堂といるから話しかけそびれちゃって。気が付いたらこんな時間」


 このひと、先輩の隣によくいる取巻きの一軍だ。


「時間ないから単刀直入に言うけど、藤堂から手、引いてくれない?」

「…え」

「知ってんでしょ? 今あんた学校で一躍有名になってんの。“男性恐怖症”…だっけ。よく考えたもんだよね、それ掲げときゃあ聞こえが普通じゃないもん、男の気、引くにはいいアイデアだと思うよ」

「…や、あの…何言っ」

「けど相手が悪かった」


 明るい声は突如豹変し、低いトーンに音程を変える。彼女は腕を組んだままうつ向き気味に顔を傾けると、鋭い目で睨んできた。


「傍にいたらわかるでしょ? あいつバカなわけ。それから優しいの、誰彼構わず女の子なら。だからあんたのこと放っておけないって言うか…物珍しい? そう、興味本位で付きまとってるだけ、今は」

「…」

「飽きたら捨てられるよ。そしたら傷付くのあんたじゃん、だからこれは忠告。そうなる前にさ、さっさと」

「あなたは」


 徐々に早口でまくし立てる彼女の言葉をはっきりと遮った。攻撃的な言葉はきっと私に刃を向けていたのに、何故か怖いとは思わなかったからだ。