先輩が一人のところを見計って声をかけようとしたその日、突然視界がブレた。正式には反転した。後を追って込み上げてくる左半身の衝撃に、何かに突き飛ばされたんだと気付く。
 理解が追いつかず驚いたまま倒れ込んだ体を起こすと、数人の女子生徒に取り囲まれていた。多分前の親衛隊とはまた違う、二年生。


「ねえ、あんた最近ずっと藤堂先輩の周りうろちょろしてるよね。キモいんだけど」

「いつまで彼女気取りだよ。あ、うちらエマの友だちね。エマ、かわいいじゃん? で、いい子なわけ。先輩の隣にいても違和感ないっていうか」
「やーっぱあんくらいの見た目の子じゃないと納得いかないよね。ずっと変なのって思ってたもん」

「てか先輩も見る目ないじゃんね」


 地味専かと思ったー、って明るい声でからから笑う先輩たちは、正直安斎先輩よりたちが悪いと思う。だってあの人たちは私をどれだけ貶しても先輩のことは貶さなかった。

 そんなふうに悪く言わなかった。


「だいたい先輩もさぁ、ああいう顔してるけど絶対中身裏あるよ」

「へらへらしてるけどカッコいいこと自覚してそう」
「俺イケメンって? やっばそれウザいわ」
「みんなのこと思ってまーすみたいの嘘くさいよね」

「撤回して」


「………は?」

「………先輩のこと悪くいうのやめて」


 鋭い目で睨んだら、起き上がった肩を脚で蹴られた。地面に倒れて笑い声が起こる。


「ねえー! きもいきもいきもい! 私が先輩の全部知ってますーみたいなそういうの! まじやめろって!」

「お前捨てられたんだよ!」
「マジで無理! む———り———」


 クズ女、ブス、根暗。傷つけるための言葉を一方的に投げつけられて、頭の中が真っ白になる。もう慣れっこなはずなのに、悔しくてくっと眉間に皺が寄る。


「…うわー、泣く? 泣いちゃう? ほんとうざ」

「やだー、いじめー? こわーい」