「…そうだ、児玉さん、先輩と面識あったんだね」

「え?」
「今日、先輩が〝たまちゃん〟って」

「あ、ああ…。文化祭のとき、生徒会の仕事で走り回ってた私が階段で落ちそうになったのを助けてもらったんです。用務員さんの段ボールと間違えてわたしが荷物持ってっちゃったもんだから、ギックリ腰になっちゃったりして大変だったんですよ」


 ふとそこで、点と点が繋がった。

 私が藤堂先輩にうっかり口を滑らせた時、用務員の仕事をしていたのはそのせいだったんだ。本当にあのひとは、多くの人間の人生にちょっとずつ絡んでる。それをいつも私は、後になってから知る。

 相手にされていたのは自分だけじゃなかったんだって。


「あっ、ごめんなさいわたしったらつい溢れ出す愛が暴走して…!! まだ何も出してませんでしたね! 待っててください今お菓子と飲み物持ってきますから! 珈琲紅茶ソフトドリンク何でもどうぞ」

「あ、ありがとう。じゃああったかい紅茶で」
(うけたまわ)りました!」

「うわ」


 勢い冷めやらぬまま、元気な返事と共に彼女がバァンと自室の扉を開け放った時だった。

 驚いたにしては、至極落ち着いた抑揚のない小さな声。丁度部屋の前を通りすがったところだったのか、ヘッドホンを首に下げた猫背気味の黒髪少年が、硬直する児玉さんを見上げて、軽く睨んだ。


「いきなり開けんなよびっくりした。家で事故るとかごめんなんだけど」

「れ…(れん)?! 今日は学校の創立記念日だからお友だちとボウリングって」
「…の予定だったんだけど友だちの妹がインフルでゲロったらしくてさ、看病で帰るって。おれも巻き添えくらいたくないから早めに切り上げてきた」


 上着を脱いでグレーのパーカー一色になった少年は、音漏れするヘッドホンを止め、目で児玉さんに何かを訴える。それに気がつくより先に、彼女は私の視線を拾った。

「あっごめんなさい凛花さんご紹介遅れましたこれ(・・)! 弟の零です!! 3つ下の中1です!! こちらいつもお話してる凛花さん! ほら零ご挨拶!!」
「…どーも」

「…は、はじめまして」


 ぺこ、と軽く頭を下げた割にはあんまりよろしくする気のなさそうな素っ気ない挨拶があって、此方としても児玉さんとの違いに控えめに頭を下げる。こういうのどうしたらいいかわからない。てか弟いたんだ、児玉さんお姉ちゃんっぽいもんな、私も兄弟なら弟が欲しかった、なんて。

 ひとりでいろいろ考えていると、弟くんが児玉さんに指図する。