「つまらないところですが、ご自由にお寛ぎください」

「うん、ありがとう」


 ベッドの上に無造作に置かれた本や、机上の課題? と思しきものを片すために児玉さんが背を向けた拍子に、本棚に向き直る。入って一番はじめに目に付いた、大きな本棚だ。あ、これ。読んだことある。知ってる小説や、同じ作者の知らない本とか。何となく視線で追って、ふと足元に辿り着いた時だった。



 …なんだろうこれ。

 本棚の一角に、雑に布が被せられていた。そこから1つだけ飛び出ている冊子があって、うっかりするとその位置から(すね)を強打しかねない。伝えようと振り向くけど、児玉さんは机周りの環境整備に必死そうだ。良かれと思い、冊子を押し込もうとする。が、一切入り込まない。…何これどうなってんの。すごい密度で本が収納されてるってこと?

「ねぇ児玉さん、ここの本1つ飛び抜けてて危ないから押しこみたいんだけど微動だにしない」
「…え? ———あ、ま! 待ってくださいそこには薄くて高い本がぁあああ!」


 ばさっ。


「………」
「………」

 ふと、足元に落下してきた1つの冊子。少女漫画、かと一瞬、思った。が、違う。何故かはだけた服装で(・・・・・・・・・・)表紙を飾る男子高校生二人組に、思わず目が点になる。


「…これ」
「だぁうっ!!」


 光の速さで突進してきた児玉さんに冊子を掠め取られ、ハッとして布を被せてあった本棚に向き直る。すると、出て来る出て来る、何だかよくわからないが少女漫画、ではない男同士の漫画の数々。これ、しってる、確か…びーえる? ってやつだ。

 本当にバレたくなかったのか、冊子の多くを全身で覆い隠(しきれてないけど)そうと珍妙なポーズで床に這いつくばる児玉さんに、そっと拾った冊子を手渡す。と、ぐしゃぐしゃの泣き顔が私を見上げた。すごい顔だ。


「………ひ、引いたでしょう。気持ち悪いですよねこんな趣味。気分を害したならすみません」

「や、別に私そういうの気にしないから」


 漫画にだって、いろんな種類があるのを知ってる。私は活字が好きだから小説派だけど、児玉さんは好きなジャンルが漫画で、ジャンルがびーえるだった。それだけだ。
 中身は見ずにはい、と返すと彼女は涙ながらにそれを受け取った。その間も優しい、とか女神とか固定推しとかなんかよくわからない声が聞こえたけど、面倒くさいからスルーする。