藤堂(とうどう)先輩と海に行って、もう一緒にいないさよならをした。

 あっという間に日々は過ぎて、あの日から一ヶ月が経っていた。
 先輩のいない私の学生生活はほとほと地味で、当たり障りがなくて、でもある種酷く平和で。

 今じゃあの半年間が夢だったんじゃないかって思うくらい、日常に色がない。

 退屈だって思うのも、それまで輝いていたものがあったからだ。でも人間なんて薄情で、慣れてしまえば、なんてことはない。そう思うようにしていた。だって、傷は時間が癒してくれる。なんて、傷つかないために離れたのに、これじゃなんだかわからない。

 でも、あの日から私の心は空っぽだった。

















児玉(こだま)さん、生徒会書記就任、おめでと———っ!」


 朝休み。彼女を迎え入れたクラッカーの音や花吹雪の嵐に、教室に入ってきた児玉さんは心底驚いた様子で大きな目を(しばたた)いた。

「わあっ…! あ、ありがとうございますー…っ!」

「公言した通り本命就任しちゃうなんて、さすが有言実行! 聞いたよ、C組の子と票が僅差だったって」

「はい…あと4票あっちが上だったら今頃補佐役決定でした」

「何はともあれA組の誇りだよ」

「看板背負うからには生半可な仕事すんなよな、落ち度があったら身内がリークするってことも常に頭の片隅に置いといて」

「ナツちょっと言葉選ぼうか」


 なんでだよ、と(にわ)かに騒ぎ出すバスケ部4人組に、その合間を縫って児玉さんを祝福するクラスメイトの面々。
 春までは、まさかこのクラスでこんな風に誰か1人を祝ったりするなんて想像してもみなかったけど。今では数々の行事を終えて、クラスが一丸となっている。

 こういうのいいな、と。相変わらず人だかりに埋もれる児玉さんを遠目に見ていると、彼女とばちっと目があった。


「おめでとう、児玉さん」
凛花(りんか)さんっ…!!」

 人混みを掻き分けて私の隣に位置付いた彼女の、それはそれは甲高い、涙ながらの呼び声。何なの、と苦笑いすると、伸ばした手で私に触れようとして、慌てて引っ込めた。…なんかよくわからないけれど、彼女はいつも自分と闘ってるんだな。


「良かったね、ここ最近ずっと頑張ってたんだもんね」

「はい、はいっ…! これで晴れてやっと解禁出来るってもんです」

「解禁って何を?」

「えええ? 決まってるじゃないですか」