「先輩頭いいんだか悪いんだかどっちかにして下さい…!」

「微積なら任せろ」

「今そんな話はしていない!」

「まーまーそう肩落とすなって。俺別に今回のこれ、無駄な買い物だなんて思ってないよ」

「反省の色0ですか…」

「買ったのこれだけじゃねーもんな」


 その言葉にばっと振り返る。すると、既にベンチに座って脚を組み、何やら数冊の本の束を傍らにぱらぱらと中の一つを開く先輩の姿。
 唖然とする私に、彼は本の表紙を私に見せる。


「…“男性恐怖症克服のための、心理療法”」

「いや俺も正直、結構無理強いしたとこあったから。曰く、男性恐怖症の子ってそれを克服しようって思い立つこと自体が大きな一歩で認められるべきなんだって。俺それ知らなかったからすげー雑だったけどさ

 自分の苦手な対象に迫られてんのに頑張るって頷いたオズちゃんは相当偉いんだなって、勉強しながら思ったわけ
 専門知識とかは無いに等しいけど、せっかくやるなら有力な助っ人であるべきだろ」

「…」

「だからこれはその御守り」

 マジックハンドを掲げてがしょん、と手をパーにする。オズちゃんといるときは俺これ腰にぶら下げてっから、と白い歯を覗かせる先輩のずるさったらない。

 だって、誰がこんな子どもみたいに無邪気に笑うひとのことを、叱り付けることが出来るんだろうか。


 ☁︎


「付き合ってる?」


 午後の授業開始前、教室に戻る道すがら小首を傾げた先輩に、こくんと頷く。

 高校入学後、早1ヶ月。

 男性恐怖症と学校1のプレイボーイ、その世間的に見て異例のタッグは噂が一人歩きをするが早いか、クラスメイト、学年、学校中に広がるのは光の速さだった。

 やはり、学校1の人気者とあっては侮れない。今日だけで付き合ってるの、と名前も顔も知らない生徒に訊かれること累計24回。人見知りが先立って(ども)りながらする説明はより質問者の疑いを深める一方で、何なら誕生日でいう「本日の主役」的に、「付き合ってません(たすき)」をかけようかなんて真面目に思い悩んでるくらいだ。