べぇ、と舌を出して遠くを見る先輩の苦い顔は、ホームに立っている他校の女子の視線も買っている。電車の駅にいる、それって要するに同じく私と徒歩通学圏内で、普段電車を利用しない藤堂先輩が電車通学の学生にも見られる機会になるわけで。
その理屈でいくと隣に立つ私は彼女に見られているのか、恍惚とした表情を浮かべた女子高生の多くは、先輩を見たあと私を見て、釈然としない様子で首をかしげていた。わかってる。変なタッグだよね、私も心からそう思う。
不貞腐れたちっぽけな器は見透かされないよう、せめて平静を装う。私は思ってしまうとすぐに顔に出てしまうけど、先輩はきっと嫌なことがあってもにこやかにかわすんだろう。
そうするしかなかったから。その術を覚えてしまったから。
ちらりと隣を見上げて、私は静かにまばたきをする。
でも、あの瞬間。
昇降口で。無表情の彼を見たとき、先輩の心の奥を覗いたような気がした。真っ暗で、影すら見えない、黒よりも深い闇。
(…話題、)
見上げた横顔は普段と何ら変わりはないのに、そう思うと酷いけど、最低だけど、少しだけ。
先輩のことが怖くなった。
今日、昼休みにこみ上げてきた感情と同じだ。どこまでが本当の姿なのか疑ってしまって、自分がさらけ出せなくなる。なら私はせめて気丈でいなくちゃと思うのに、浮かばない。
いつもどんな話してたっけ。何でもいい、何か、
なにか、
「…そんなビビんなくても取って食やしねーよ」
「!」
「電車きた」
先輩の一言のち、駅構内のアナウンスが流れる。到着した電車にさっさと乗り込んでしまう先輩を見ると、私は慌ててその電車に乗り込んだ。
———どこ行くんですか
———さて、どこでしょう
———真面目に聞いてるんですけど
——————着いたらわかるよ。
電車に乗ってそんなやりとりをしたのは、かれこれ40分も前の話だ。都心の電車は利用者が多く、ましてや夕方ということもあって初めこそ人でごった返していた。
でも車内の人が流れて、入れ替わってを繰り返すうち。まるで田舎の電車のように人影はまばらになって、今では、知らない駅を目指して車体は滑走している。
毎日人を乗せて走る箱は定期的なリズムを伴って、外からの斜陽が車内をオレンジに染め上げる。そしてそれは、ソファの端に腰掛けていた私が、その光の行く先を目で追っていた時だ。



