見たかったなーおれも。横目で藤堂の反応を(うかが)いながら放った言葉に、藤堂は鞄から取り出したスマホを触るだけだった。今朝凛花が送ったというメッセージを確認し、永久保存フォルダに区分する。そんな作業の合間に見せた曖昧な相槌(あいづち)を、智也は見逃さなかった。
 
「…どうかした?」
「や、なんか様子おかしかったんだよ今日、オズちゃん。俺の顔見てぼーっとしちゃってさ、上の空っつーの?
 
 …具合悪いわけじゃなかったらいいけど」

 スマホを鞄にねじ込み、ペンケースと教科書を片手に持つ。いつの間にか自分達だけになっていた教室で、そのまま背を向けて歩いていく藤堂を目で追い、言った。
 
 
「話したんだ、全部」
 
 
 ぴた、と床に足を縫い付けられたかのように、その背中が立ち止まる。
 
「お前のこと」
「………っ、なんで」
 
 振り向いた顔は、今にも泣き出しそうだった。知ってる。こいつが抱えてる真実は、きっとどの誰よりも「彼女」にだけは知られたくなかった真実だってこと。
 
「なんで、」
 
 視線を伏せる智也に、憤りと悲しみがない交ぜになって震えた声が更に詰め寄ってくる。

 
「———っ俺のことはあの子に関係ないだろ、」
「あの子をずっと自分のために繫ぎ止めるつもりか」
 

 声が震えた。言葉は迷った。顔を上げた智也の赤い目は、自分を叱咤(しった)した結果のように見えた。親友という身分が友人を崩落させるなら、自分が鬼になることを選ぶ、そんな。
 
「小津さんの為を思ってるって言うんなら、それはお前のただのエゴだぞ」
 
 案の定、藤堂は今一つ理解出来ないように顔を歪めた。思い出せない言葉を絞り出すように、何度か瞬いて視線を逸らす。
 
「わかってるんだろお前も、自分の中で彼女がどういう存在か。このままじゃ駄目だってことも」
「…」
 
「告白だけ断ったからって彼女の気持ちを利用して今まで通りを演じるなんて無理だ、こんなの誰のためにもならない。
 
 お前は小津さんのために」
 
 
 けじめつけるべきだ。
 




 ☁︎
 
 
 朝見た天気予報で、今日は一部所により雨、と言っていた。秋晴れが続いていたのに油断するんじゃなかった、そのせいで普段常備している折り畳み傘もうっかり鞄の外に出してきて忘れたし、置き傘も持ってない。そんな日に限って掃除当番で遅くなるわ、道理で今日の双子座は12位なわけだ。
 
 外を気にしながら人気の少なくなった廊下を抜けて、足早に生徒昇降口へと辿り着く。しめた、雨はまだ降ってないみたいだ。