言えない。実は智也先輩頼りで何かしらの情報得られるんじゃないかと思ったなんて、口が裂けても言えない。口元に拳を置いてしどろもどろする私に、静かに私を見守っていた先輩が軽く苦笑いする。

「本人に直接聞いてみたら?」
「あ。確かにそれもそうですね」

 言われるがままいそいそスマホを取り出して、数少ない連絡先の中から先輩の名前を割り出し思い切ってタップする。プップップの音に続いて通話中の音が鳴る中、向かいに立つ智也先輩を見上げていや待てよと、思う。


「………何が欲しいか聞いたらサプライズにならなくないですか」

「え、サプライズにしたかったの」
「あああああっ! 大変やばい切」
《もしもし?》

「ひょぁあっ!?」

 自分からかけたくせして飛び上がる。ばっくばっくと心臓が鳴る中通話停止するにも身元割れてるから叶わないし! どうしよう!!

《…オズちゃん?》

「せっ! 先輩に聞きたいことがあって電話したので何も聞かずに答えてください」
《…色々ツッコミどころ満載だけど承知した》
「先輩、好きなものなんですか」

《女の子》


 電話を切る。


「………わかった?」
「よくわかりました。私が好意を寄せる相手が相当馬鹿だってことだけは」

 もう帰ってやろっかななんかバカらしくなってきた。

 はぁ、と深いため息をついて急にやる気が削げてしまう私に、向かいに立った智也先輩は顎に手を添え考える人のポーズをする。

「小津さんが渡すものならあいつなんでも喜ぶと思うけど」

「それじゃ駄目なんです、当たり障りないものじゃなくて、せめて理に(かな)ったものじゃないと…因みに智也先輩は何渡してたんですか?」
「おれはいつも図書カード。はじめは購買のジュースとか買ってたんだけどどーかなって思ったし、参考書とかでなんやかんや使うから。まぁ始めは子ども会の保護者かってツッコまれたけどね」

「図書カードかぁ…」


 でも、実用的なものの方がきっと貰って嬉しいものではあるもんな。自分の手首に視線を落とし、(ひらめ)いてパッと掲げる。これ見よがしに腕時計を指差すのに、彼は左右に首を振った。

「時計に関してはオススメしない。確かにいつも色んなのつけてるけど自分で集めるのが趣味って言ってたからね、それに値段も高くつくでしょ」
「た、確かに」

 いよいよ本気で行き場を失い、頭を抱える。あああ、どうしよう。こんなことならもっと先輩の好きなもの調べとくんだった。ため息混じりに(うつむ)いて、視線を落とした先に見える、蟻一匹。いいなお前は、毎日毎日せかせかと仕事して、こういう悩みを抱えたこともないんだろう、なんて。

 それを目で追っていると、智也先輩の足元に焦点が合った。

「…智也先輩」
「ん?」

「先輩の足のサイズ、わかります?」