浮ついた魂が時折見せる、一人歩きみたいに。









「ねぇねぇ! 今日クラスのみんなでボウリング行こうよ!」

 高三の春、受験生という荷を背負ったにしては無責任なまでに、同年代の女子は仰々しい賑やかしさを抱いていた。

 「受験」のスタートダッシュを切ったストレスと呼ぶには、あまりに魂胆の見え透いた。


「いいね~! 前のクラス会全員参加じゃなかったし! 私そこの割引チケット持ってるよ!」

「やりぃ、決定ー! クラス親睦会・改! 参加出来る子この指とまれー」

「ねねっ藤堂も行くでしょー?」

「あ———ごめん、俺今日パス」


 ほんの少し鼻にかかった、高いとも低いとも言い得る声をアルトだとかテノールだとかに例えるには、もう聞き慣れすぎてしまっていた。
 教室の真ん中で発せられた声に秒でブーイングが上がるのは、きっとこの教室にいた全員が彼の参加を待ちわびていたからだ。

 非難の花道を掻い潜る彼をその出口で待ち構えていると、奴はやはり笑った。とびきり胡散臭い笑顔で。


「あんたにも読めない空気とかあったんだ」

「ごめんて。欠かせない用事があんの」

「…急用なわけ?」

「うんや、ジャンルとしては単に野暮用」

 って事で幹事よろ。

 ぽすりと肩に置かれた手のひらと、それきり隣をすり抜けてしまう影。私は目で追いながら教室の喧騒に投げかける。


「…何あれ。最近藤堂ノリ悪くない?」

「え、有愛希(ゆうき)おまえ知んねえの? 今話題の新1年生のこと」

「新1年生?」

「そーそー。ツンツン美少女の上男っ気ないとかで、最近の藤堂はもっぱらその子にご執心らしいよ」

「…ふーん」

 視界の端を、足早に駆けていく背中。誰にもばれないように感覚を研ぎ澄ませてみては、忘れた頃にそんな適当な相槌を返した。