「智也から聞いた。看病してくれたんだってな。寝込んでて全然気付かんかった。…ありがと」

「いえ」


 智也先輩の言う通り、もう具合は良いらしい。昨日保健室でぐったりしていたのが嘘みたいだ。劇に使われると思しき飾りや、ペンキを塗りかけの看板。散らかった教室を流し目で見る私に、先輩もそんな床に散らばった飾りをいじりながらしゃがみ込んでいる。


「あ、あれだ心配で様子見に来たんだろ。だーいじょうぶだってほんっと極たまにデレるんだからもう」

「…」
「おーいシカトですかー」


 言われてみればそうだ。

 今まで先輩が女性にだらしなくてモテまくってることは知ってたけど。逆に私自身、このひとにそんなこと問いかけてみたことがなかった。

 知る必要もなかったし、知りたいとも思わなかったから。

 でもいまは。



「先輩に聞きたいことがあるんです」

「んー何々? あ、もしやスリーサイズとか? やだぁオズちゃんのえっち…」



「先輩、付き合ってるひと、いるんですか?」




 まっすぐ、目を逸らさずに投げかけた。


 私の精一杯の虚勢に、彼は少し目を見開いて、それから少しだけ。

 切なげに笑った。









「…うん」