5限目、授業開始直後。
案の定席を立った柚寧ちゃんは後ろの扉から教室を出て行く。その姿を横目に見ると、私たちは顔を見合わせて席を立ち上がった。
尾行、なんて野暮な真似したくなかったけど、致し方ない。文化祭準備で賑わう1年教室からどんどん遠ざかり、やがて渡り廊下を越えて。特別棟へと消えていく彼女の背中を見送ると、ひょこっと壁から二人して顔を出した。
「…どうしましょう、これでもし仲間内でモメた相手と逢い引きしてるんだとしたらそれ制裁ものですよ。反省の色なしですもん…うっ。でも授業中の逢引えろい、可愛い子がイケメンと戯れてたらどうしましょうそれはそれで」
「ちょっと静かに」
足音を殺して壁伝いに移動し、柚寧ちゃんが消えた教室、その札を見上げる。
(…地学教室…?)
目を細めて警戒を解くと、その扉の前に立つ。未だに忍者ごっこをしている児玉さんに構わず、
私は容赦なくその扉をノックした。
「っ誰!?」
間髪入れず届く声に、ガラリと扉を開く。教室の窓辺に立っていた柚寧ちゃんは私と児玉さんを交互に見ると、縮こめていた肩をゆっくりと落とした。
「…尾けてたの? …最低」
「うん。ごめん」
「…これって…」
立ったまま柚寧ちゃんを見つめる私に代わって、その後ろで児玉さんが室内を見渡す。カーテンを閉めきり、暗幕を引いた教室はただただ彼女が独りで引きこもるためにでっち上げた空間ではない。
もう隠すことも諦めたらしい、柚寧ちゃんが手に持った10角形ほどのピンホール式投影機を見て、児玉さんはオーバーリアクションをとった。
「そ、そういえば柚寧さんたちの班、元々地学教室借りて〝プラネタリウム展示〟するって報告上がってました。天文部顔負けのプランですごいなって思ったので覚えてます! でも突然他の班員さんが違う展示案出してきたんでてっきり無くなったんだとばかり…」
——————班員と一悶着あってハブられたんだって。
今朝の仲谷さんの言葉が脳裏をよぎり、腑に落ちる。モメて、嫌になったから、匙を投げたんだ。柚寧ちゃん以外の全員が、…彼女に全部を押し付けて。
「…柚寧ちゃん、もしかしてこれ一人でやろうと」
「そうだよ」
暗幕を引いた暗がりの天井に、無数の光が散らばっている。宝石箱をひっくり返したみたいな星は、都会の空では滅多に見られない結晶だった。