今コソッと耳打ちしてくれる仲谷さんの後ろで、ここの動画の編集のツメが甘いだとか、真面目にやれ、とかバスケ以外でも班員にストイックさを見せる草薙さんに、確かに今になってどうこう言える感じでもなかった。

 そもそもあのタイプは、今から私が誘ったってトイレで吠えられたみたいに拒絶されるのが関の山だと思う。そして肝心の私自身に、その気持ちは更々ない。


「ま、なんとかなるよきっと! ほら、小津さんもっかい動画最終チェックお願いします!」

「う、うん」



 席について、その姿から背を向ける。
 
 たぶんこの時それでも更々なかった気持ちが違う方向に傾き始めたのは、その姿が昔の自分に酷く似ていたからだろう。










 ☁︎


「なんですかこれっ! ギャン可愛いっ!」


 わーい、ってバスケ部4人と私で最後に手を振る場面でなぜか一番の奇声を上げたのは言わずもがな児玉さんだった。それまでの内容入ってる? と聞きたくなる私に、素晴らしい、とスタンディングオベーションしてくれる。


「最高ですね。小津班、圧倒的無敵カワイイ認定の称号贈呈します」

「班長仲谷さんだよ」
「この動画もらえないんですか? 自宅のデジタルフォトフレームに入れて拝みたいんですけど」
「やめてもらっていいかな」


 恥ずかしいわ、とスマホをふんだくるとえー、としょげる児玉さんは本気でしかねないから嫌だ。

 そんなやりとりをしていると、ふと授業中ずっと席を外していた柚寧ちゃんが人混みに紛れて教室に戻ってきた。何か探しているのか、自分の机の中を探っているみたいだ。

 それからまたしても顔を背けて立ち上がった彼女はそれっきり、何も言わずに教室を出て行ってしまった。


「…柚寧さん、さっきのレクの授業中もずっと教室にいなかったしどこに行ってるんでしょうか…同じ班の方達とはめっきり別行動してるみたいだし」

 心配そうに告げる児玉さんに、私は廊下の一点を見つめたまま固まる。そして。

「…今日って、確か5・6限もレクリエーションだったよね」
「あ、はい。そうですけど…?」

 きょとんと目を丸くする彼女に振り向くと、私はニヤリ、と口角を引き上げた。