うわ、どうしよう、かっこいい。


 突如、猛烈にせり上がってくる妙な感情に、頰を膨らませて制服の胸元を両手でぎゅうぎゅうと握り締める。
 うわあああ痴女だ。好きなひと眺めて発情してるなんて、うっかり触りたいなんて、見てるだけでおかしいなんて色々ともうだめだ!

 どきどきを通り越してぎゅんぎゅんする。ぎゅっと目を瞑ってそんな感情に堪えていると、「ん、」と小さく唸った先輩が寝返りを打って背を向けた。それはそれで今度は広い背中が目について堪らなくなってしまうんだからだめだ、私はもうだめだ、末期だ。


(………ちょっとだけ、)


 ぐらぐらと揺れた視界に負けて、やがて自分に都合の良い方向へと解釈する。覗き込んでどうしてやろうかと思った直後、はっとした。熱があるんだ。首筋を伝う汗に気付くと、枕元に置いてあったタオルを取る。あ、首の付け根。こんなところにほくろあるんだ。いつもは高いとこにいるからよく見えないけれど、なんて。

 きゅっと握ったタオルの先が、先輩の耳元をかすめたその瞬間。







奈緒子(なおこ)?」







——————————————え、







 がら、と保健室の戸が開く音に飛び上がり、シャッとカーテンの外に出る。途端、首に手を置いた鬼頭先生と目があった。

「…あれ、小津、お前授業中だろ、何してる」

「あ、はい、あの。模造紙に使うマジック取りに職員室向かう途中、先生戻ってくるまで、その…看病、頼まれちゃって」

「ああ悪い、ちょっと職員室に用事があって…ご苦労様、もう行って大丈夫」

「失礼します」


 半笑いで鬼頭先生の横をすり抜けて、ぱたぱたと職員室に向かって走る途中、足がもつれて失速する。壁にもたれて、ぎゅっと胸に手を当てて蹲るのに治らない。

 どくり、どくりと体の中心を跳ねる心臓が、自分のじゃないみたいにうるさくて困る。