中身確認、大事。腕組みをしてうんうんと頷く彼の周りは、既に一通り作業をし終えた後なのか。刈り終わった雑草の塊で埋め尽くされている。
これまさか1人で、と疑う余地もないのは、泥で汚れた頬や、頬を伝う汗がそれを証明しているからだ。
「俺はその代理。んま、美化委員ですしね」
「これ全部、一人で…!? て、手伝います」
「いいって。汚れる」
軽く手で制すと、それ以上近寄るのを拒む先輩。雑草を一通り刈って次は花壇に手を出すのだろうか、その背中を見て私は一抹の不安がよぎった。
「…いいんですか、練習稽古ほっぽって」
「んー?」
「言伝。智也先輩から聞きました。ロミオとジュリエットやるって」
「そーそー。俺ロミオだよマジかって感じじゃんね」
「あ、そういえば相手役。ジュリエットは誰がやるんですか?」
花壇に向いていた背中が次の動作をしながら、さらりと告げる。
「有愛希」
「…そっか」
「うん」
「様になりそう。安斎先輩背、高いし。綺麗だし、うん。美男美女、衣装も絵になるロミジュリだ」
「ふふ」
「何故笑う」
「オズちゃんは動揺するとよく喋るよな」
「そんなこと、」
声が届く距離まで踏み寄った瞬間、花壇脇で、屈んだままの先輩が振り向いて、そっと私の顔の横に手をかざす。ふわりと視野に入った桃色が、秋桜の花を添えられたんだと教えてくれた。
「何、?」
「うん、オズちゃんはコスモスっぽい」
「先輩は自己主張半端ないから向日葵ですかね」
「それは向日葵に謝れ。そして俺が好きなのは金木犀」
金木犀ってどんな花だったっけ。あ、あの秋にオレンジに花を咲かせる小さな花だ。そんなことを考えていると、彼の瞳が軽く細められる。
「な、知ってる? コスモスの花言葉」
「知らないです。てか花言葉とか詳しいんですかほんとチャラい」
「昔調べただけだし! 黙って聞いてくれ」
「何て言うんですか」
純潔。
「…あとは、乙女の真心とか、謙虚とか。そんな感じ?」
「…皮肉が過ぎるでしょ」
「え?」
純潔、なんて。だって私にとって一番縁遠いものじゃないか。
好きなひとが出来て、好きなひとと意見を共にして手を取り合う瞬間を、私は知らない。自分から手放したんじゃなく、有無を言わさず奪われてしまった。そうさせたのは、自分。わかっていても、過ぎた後悔は消せない。