とくり、と心臓が跳ねた。

 …またこの気持ちだ。むず痒くて、居た堪れなくて、くすぐったくて、やるせない。


 夏祭りの時から、ずっとそう。隣にいると、それだけで胸が苦しくて痛かった。

 困って下唇を噛む私の姿が智也先輩には悟られてしまったのか、そのあと優しい葉音のような問いかけがあった。


「小津さん、藤堂のこと好きなの?」

「えっ」


 まさか言われるとは思ってなくて、露骨に視線がブレた。おろおろして、でも智也先輩の目が隣であんまりやさしく笑うから、力無く目を逸らして、

 こく、と頷く。

 

 すると、少し時間を置いてから隣の熱が「…そっか」と相槌を打って立ち上がった。


「えっと」

「早めに教室戻るよ。伝書鳩は同じ電柱にずっと留まらないもんでしょ」
「あの、智也先輩」
「ん?」

 ありがとうございます。

「…言伝」

 制服の胸元をきゅっと掴んでお辞儀すると、彼はまた、にこりと微笑む。それきり歩いていく背中を見送って、私はまたお弁当に向かって手を合わせた。








 ☁︎


(………わたしとしたことがまた雑用を頼まれてしまった)


 今後社会人になって就職するときは、間違っても体力だけには自信がありますなんて言わないでおこう。でなければブラック企業の恰好の餌食だ、と意思表明しながら階段を上るのは三つ編みに赤縁眼鏡の児玉 累。

 放課後に時間を割く為出来る仕事は昼間に済ませ、本来であれば今頃凛花と教室装飾の案を出しっこする予定が組まれていただけに、唐突に雑用を押し付けてきた生徒会長にギュリィと奥歯を噛み締める。


「………こうなったらそろそろカビとか培養して会長には3ターンほど戦闘不能になってもらうしか」

「A組使わなくなったから急遽(きゅうきょ)体育館30分フリーだって、取られる前にマッハで走って———!」

「、っ!?」


 突如、階段上から怒涛の勢いで駆け下りてきた3年の軍団に階段を踏み外す。あ、待ってこれはまずい。



————————————落ちる。