あれから、児玉さんに勇気を出して声をかけた日から、私はそれとなく児玉さんと一緒にいることが多くなっていた。私には何の役職もなければ部活動にも入ってない。もちろんグループ展示の動画制作の準備はあったけどそれでもまだ余裕があるわで、空いた時間はなるべくバタバタ駆け回ってる児玉さんの手伝いをしたいと、思ったからだ。

 いや、正直言うとファンなんです、とか言われて浮き足立ってたのもあるのかもしれない。あんな露骨に毒っ気0の好意を向けられて嫌がる人間なんていないし、結構、下心もあった。

 友だちに、なれたら。

 そんなふうに思ってることを、今はひとまず言えずに手伝ったりしてる、状況。







「変だな、いつもなら先に座ってるんだけど」


 そんなこんなで、お昼休み、いつも通りお弁当持参で中庭を訪れた。が、いつもなら先に座って犬のように待てをしている藤堂先輩の姿はない。そういえばこの前もいなかった。


「む、む…! むしろ好都合ですあんな遠巻きから見てもわかる二枚目目の前にしたら呼吸出来るかわかりませんしそもそもわたしがここにいるだけで場違い感半端ないんで」


 ひょおおおおおここが二人がいつも愛を育んでるベンチスポットですか滾る~! とか言いもって明らかに安くはなさそうな一眼レフと、更にSNS用にとスマホでばしゃばしゃと撮影を繰り返す彼女は…若干猟奇染みている。

 半目になって先に腰掛けると、「失礼して」の前置きあって彼女もそっと隣に腰掛けた。


「…児玉さんから見ても、先輩はやっぱりイケメンなんだね」

「あぁ、特許取得モノの二枚目ですからね藤堂先輩は。まずこの世のものとは思わざる肌艶、髪の質感、制服の抜け要素、それでいてちゃっかり守った校則、外さない第2ボタン、腕時計、高身長、文武両道っぷりは国民栄誉賞受賞」

「う、うん?」


 手に持った抹茶ラテパックのストローをギリィと噛みしめつつ、尚も続けるお隣の言葉はそれとなく右から左へ受け流す。
 それでいて今日のお弁当のメインが春巻きだということをちゃっかり確認すると、顔を上げた視界に映った“そのひと”に目を細める。


「でも安心してください、褒めちぎってはいますがわたしの中の推しは藤凛【固定】ですし! 
 何より今こうして凛花さんの隣にわたしが存在しているだけでそれもう奇せ」

「智也先輩」


 校舎を行き交う男子高生の何人がそれを着ているだろう。ベージュのニットベストにきちんとネクタイを結んだ栗毛の“そのひと”こと智也先輩は、私が気付いたとわかると軽く微笑んだ。