けど悪役であえて不敵に笑うところも見てみたい、と妄想し一気に机に突っ伏すバスケ部三人(※草薙さんを除く)を前になんかなんともいえない気持ちになる。
そっか。私はあのひとの情けないところとかあほなところとかあほなところとかあほなところしか知らないけど、みんなかっこいい、完璧、でまとまってるんだもんな。
「えー、でも藤堂先輩は王子さま! ってより騎士《ナイト》感ない? 小津さんのこと守ります! 全方位守備! って感じ」
「わっかるイケメンアルソック」
「その点で王子様だったら江坂先輩のがしっくり来る気がする」
「確かに確かに! 茶髪だしね!? 色白だしね!? 怠惰なとこが物憂げ王子!」
「ね! でも私あの二人絶対デキてると思うからいっそ二人で出て禁断の関係ってのもヤバい見たいかも」
「待って! 禁断!! それはヤバい」
きゃ———、と黄色い悲鳴が上がったところでドン、と机に衝撃。見上げると、黒髪三つ編みおさげの赤縁眼鏡の女の子がキラ、と眼鏡を光らせていた。
確か、学級委員長の…児玉さんだ。
「静粛に。今は総合の時間です。私語はお控え頂き、各位展示の話し合いを行ってください」
「………ぁ、ご、ごめん」
「模造紙など必要な材料があればわたしまで」
「ぁ、ありがと」
それでは、と眼鏡を上げてくるりと背を向ける児玉さんを見送って、みんなこわー、と声を上げる。
「おっかなおっかな。委員長あんなキャラだったっけ」
「フミとサナが変な妄想するからだろ」
「ナツだってすればいーじゃん! 夢ないなあ!」
「あーもーほら。また怒られちゃうから真面目に取り組も」
静粛に、って児玉さんの真似をする仲谷さんに似てるーとか言いながら笑う平和なグループをよそに、私は記憶の引き出しのしおりを、確認する。
☁︎
あのあとライヴペインティングや写真展なんかの候補が上がって、私は地域の猫縄張り調査を提案したら仲谷さんにやめとこ、と笑顔でやんわり断られた。
結局最終ショートムービーの制作に決まったから、スマホ一つで編集したり、なんかあの有名な動画サイトのまねごとみたいなことをするらしい。
「…ねこ、いいんだけどなぁ」
「委員長これよっしく!!」
廊下を歩きながらそろそろ山の色が変わってきたな、なんておじいさんみたいなことを思ってたら向かいから声がした。段ボールを抱えた児玉さんの後ろ姿にべす、と提出用紙みたいなものを乗せる男子が見える。