学校から歩いて二十分のところに大王公園と言う行きつけの公園がある。

 名前の由来は、公園でよく見かけるタコ山、にちなんで作られたペンギン山の遊具で、地面から顔を出し、所々に穴の開いたペンギンは頭に冠を被っていることからいつぞやから人はこれをペンギン大王、と呼んで、そこから大王公園と呼ばれるようになったとか。

 しかし私が物心つく前からある公園はブランコが錆びたり遊具の塗装が剥げたりし放題で、ペンギン大王も例外ではない。薄汚れたペンギンを見上げてみると、大きな目玉からは汚れで茶色の染みが出来て、泣いてるようにも見えた。

 暮れるのが遅い春の夕方。
 ベンチに座って文庫本を眺めたまま、私は無人の公園でひとり、呟いた。


「そろそろ警察につまみ出しますよ」

「あ、それ困る。一応成績首位だから」


 大学推薦狙えなくなっちゃう、もしくは三年間無遅刻無欠席無早退の記録失っちゃう。とか何とか言って姿を現すその人物。
 こういうの、呼ばれて飛び出ぬって言うのかな。ペンギン大王のお腹のあたりの穴から顔を出した先輩は、何故かどこぞの殺し屋みたいなサングラスを身につけた姿でばーんと銃を撃つ真似をした。


「言いましたよね、もう私の前に現れないでくださいって」

「うんまあね」

「じゃあなんでまた、」


 顔を上げた時だった。既に前にいた先輩が私に向かって茶封筒を突きつける。覗くまでもなくそれが何かすぐ察しがついた。

「…これ」

「前くれたスニーカー代。オズちゃんバイトとかしてないでしょ? となるとお小遣いだ。一介のJKが親からもらったお金、そう簡単に差し出しちゃいけません」

「…それを返すためだけに、わざわざこんなところまで?」


 おずおずと切り出す私に、先輩は振り向かない。代わりにさっきまでとは打って変わった静かな声が、諭すように言った。

「…君の事情も知らずに土足で踏み入ったことを反省してる」

「…」

「悪かった」


  そっぽを向いていた顔が私を見て、深々と頭を下げる。いつもひょうきんな態度ばかりを取る男、だからこそ。そんな対応、されるとは思っていなくて。まさか ずっとこれを言うために先輩は私を探していたのだろうかと思うと、それから頑なに逃げ続けていた自分が情けなくて、同時に恥ずかしくもなった。