「凛花ちゃん! 凛花ちゃん、いる!?」


 途端、けたたましく鳴り響くインターホンに、その呼び鈴も意味なく玄関の扉を開け放つ成美伯母さんと、その後ろに今しがた帰ってきたらしいお父さん、それから藤堂先輩が見えた。

「あいつから連絡来なかった!?」

「あ、あいつ?」
「栄介!」
「あ、うん、たった今…」

「やっぱり…、凛花ちゃん。栄介、ギター持って出てった」


 え、と固まる私に、成美伯母さんは続ける。


「で、でもギターは前に売ったって」

「口から出まかせよそんなの。あいつずっとクローゼットの奥に隠してたもん、エロ本の隠し場所と言い昔から一辺倒すぎるからバレバレだけどね」


 やれやれといった感じで頭に手を置く成美伯母さんは続ける。


「で、今日。あいつの母校の文化祭なんだけど…そこの卒業生有志で昔のバンド仲間が演奏するの。…まさかとは思うけど…あいつ、それぶち壊したりする気じゃないかって」

「………行かなきゃ」
「オズちゃん!」

「私がエイにぃのこと止めなくちゃ!!」


 飛び出した手を引き止められて振り返る。涙で潤んだ視界に驚いた先輩が見えて、私の目からぽろ、と光が落ちた。


「………エイにぃの歌、聞かなくちゃ」


 もう二度と聞けないかもしれない。
 エイにぃが誰に伝えたがっていたのか。

 止めたいなんて嘘。私はただ。私がただ、エイにぃの、


 彼の歌をもう一度、聞きたいだけだ。



 手首を掴んでいた先輩が、ぽろぽろと涙する私の頰に触れる。顔を上げると、優しさに強さを灯した瞳が、笑った。


「俺も行く」

「…先輩」


 大丈夫だ、って強くあなたが頷くから、私も頷いて涙を拭った。