初めてちゃんと触れた先輩の手のひらは大きくて、うっかりすれば泣いてしまいそう。

 それは彼も同じだったみたいで、手を取って私が同じ段まで降りてくると、「ちっさ、」とか細い声で笑った。


「………あぁやべぇ泣きそうだ俺……」


「手、繋いだだけで大袈裟ですね」

「だってここまでくるのにどれだけかかったか…」

「それは、すみません」

「大丈夫? 夢じゃない? ちょっと幻くさくて信じられないから頬っぺた打ってもらってもいい」

「いやです気持ち悪いです先輩喜びそうだもん」

「なんでわかったんだよ」

「本当に喜ぶのかよ」


 気持ちわりいな、と苦い顔で先輩の手を握ったまま見上げれば、先輩は腕で隠していた目元をちら、と覗かせる。なにその見方、と軽く笑えば、先輩はまた実感するように目を閉じてしまった。


「…先輩私ね、」

「うん」

「あなたの家族も、大丈夫だって思う」

「え?」

 怯えて逃げ惑っていたこの手だって先輩に触れられた。それなら、ここにない手だって。


「お父さんは先輩に会いたいって思ってると思います。自分の子どもが可愛くない親なんていませんよ、それを重荷に感じることだって」


 強い瞳で真っ直ぐに思いの丈をぶつけると、彼は驚いたように目を丸くする。ひとりじゃない。貴方がそうしてくれたように、私も貴方のそばにいる。家族だって、ここにいなくても同じことを思ってる。

「…うん」

 目で訴えて笑うと、先輩もまた時期に、泣きそうな顔で微笑んだ。


 そして、パッと顔を背けると両手を高くあげてぐっと伸びをする。


「あーでも俺殴られんのかなー…顔はやめてほしいな…」

「目立たないところコテンパンにしてほしいですよね」
「おいこら」
「冗談ですよ」








 他愛もないやりとりをして、家の前に辿り着いた。

 こういうとき、親は何かしらのセンサーでも感知しているのだろうか。

 こっちが開ける前に扉が開いて、お母さんが出てきた。泣きそうな顔が、泣きそうな声が、「凛花、」と呼んだ瞬間、私も自然と足が動く。
 吸い込まれるように名前を呼んでお母さんに抱き着くと、優しく力強い手が頭をさすってくれた。そんな様子を隣で見ていたのは、眼鏡をかけた中肉中背の男性。お父さんだ。

 お父さんはお母さんの肩を軽く撫でた後、離れた場所で私たちを見守っていた藤堂先輩に向き直る。


——————そして一気に先輩の元へ踏み込んで、