やべえ何一つ話噛み合ってないんだが。そう脳内で悶々とする智也に、それすら気づいてない藤堂。仕舞いには味噌汁に手を付けたつもりだったのか、汲んできた水に割り箸を突っ込んで「味薄いね今日」とか言い出した時にはこれは駄目だと瞬いた。


「何かあったのか?」

「ん? んー…まぁちょいとコレが」

 言いもって藤堂は小指をくい、と曲げてみせる。それを見るなり、智也は深い息を吐いた。


「珍しく辛気臭いと思ったらまた女のことかよ」

「まあねー」

「…でもお前が女のことでそこまで凹むのって珍しいな。いつも行き当たりばったりな癖に」


 唇に小さな笑みを乗せて味噌汁を啜る智也に、返す言葉も見つからない。割り箸を突っ込んだ水のコップ、その底から浮かぶ小さな泡を見つめて、しばらく。
 それは、二人の席の近くで騒いでいた生徒たちの声が遠ざかって行った頃。


「酷いことして傷付けた」

「…泣かしたのか?」


 B定食の海老フライを口に運ぶ途中、投げかけた智也の質問に。頬杖をついたまま中庭に視線を向けると、藤堂は自分を咎めるように呟いた。


「それ以上だよ」


 ふとしたときに彼女の姿を見かける度、彼女はずっと独りだった。例えば中庭で読書をしているとき、裏庭の花壇の傍、昼休みの図書室。
 独特の空気を纏い過ごす彼女を周りは気にも留めない。それは何かにも酷似していて、何かと考えている間に、不意にそれが〝空気〟だと気付いた。

 どこか清廉された雰囲気は、透明度は。日に日に研ぎ澄まされ、今日も誰の目にも留まらずただ静かに終わることを祈っている。


(——————どこに)


 行きたいんだあの子、と考えていたら目の前の柱に顔面からぶつかった。


「危ないぞ」

「言うのおせえよ智也くん…!」

「言ったよぶつかる5秒前」


 やだこれだから一人ポエム向いてない。じんじんと痛む額を涙目で抑えてそれでも遠くを眺める藤堂に、隣にいた智也はため息混じりに問いかける。


「今日、クラスの親睦会でカラオケ行くらしいよ。藤堂、おまえ出席する?」

「………いや」

「…」

「ちょっと野暮用思い出した」