「…私は馬鹿だ」
知ったふりをするばかりで。
好きだからそばにいたい、そんな自分の感情ばっかりで。
「………エイにぃが仲間から見放されてバンドを辞めたことも、中学生の頃、学校をサボって本当のお父さんに会いに行っていたことも。全部わかったのは、彼がいなくなってからでした」
制止を振り切って家を出たエイにぃをどうしてもっと無理にでも繋ぎ止めなかったのかと。あの頃成美伯母さんはずっと後悔していた。
エイにぃはずっと居場所を探してた。自分がここにいていいよって、誰かに認めてもらえる場所を自分なりに見つけて、笑って、たぶん伯母さんを守ってあげたかっただけなのに。
お父さんにいらないって言われて。
仲間にも裏切られて。
それがどんなに辛くて、悔しくて、もどかしかったか。
「私は何も知らなかった」
今まで押し留めていた想いが、堰を切って込み上げてきた。ぼろ、ぼろ、と雨のように涙が溢れて、もう自分では止められない。
「エイにぃにとっての、きっと唯一の希望だったのに」
溢れるのはタラレバばかりだ。
あのときこうしていれば。
私がエイにぃの傷に気付いていたら。
それに比べたら、私が受けたこんな傷生易しい。あの人が心に負った、私が負わせてしまった傷に比べれば、きっとなんてことはない。私はあのときエイにぃと、
生きたままどこまでも堕ちていくべきだった。
それなのに光に焦がれた。立ち上がりたいなんて藤堂先輩を見て思ってしまった。前を向いて生きる勇気を、その決意が裏切りになるなんて気付かずに。
エイにぃはそんな私を見て、どう思ったのだろう。
「だから…っ私が今みたいになったのは、……っ自業、自得なんですっ…」
「………それは、違うと思う」
泣き噦り続ける声に紛れて、先輩の静かな声がスッと耳に入ってくる。低く落ち着いた冷静に、ぽろ、と涙が落ちる。
「正しいとか、間違いとか、見方によっちゃそりゃブレたりするよ。誰に肩持つかで変わってくる、そんなもんは。
今言ってるのはそんなことじゃない、俺は人としてどうかって話をしてる」
「…、」
「あいつが傷付いてた、それにオズちゃんが気付けなかった事実があっても。
それであいつがお前を傷付ける理由にはならない。オズちゃんが自分を咎める言い訳にも」
俯いて顔に散らかった髪の合間から、彼はいつだって怯えた私の涙色の瞳を絡め取る。切なげに眉を下げた先輩は、眼を細めて微笑んだ。
「帰ろう、オズちゃん。
夜が明けたら、謝りに行こう。
君には、君を待ってる人がいる」
俺もちゃんと、そばにいるから。
全力で泣くと気管が狭まるように喉がぎゅっとして、こめかみが痛くなった。明日目が腫れないようにと渡された小さな氷嚢は夏の夜、首元に置くだけでひんやりして気持ちがいい。
「変に部屋物色すんの厳禁」と人に指を指してまで念押しした藤堂先輩は、今はお風呂に入っている。



