〝自分が望まれて生まれた存在だって。本気でそう思ってたのか?〟


 やっぱり俺は、どこまで経っても取るに足らない、いらない人間だったんだ。全部塞いできたけど知ってる。言葉の先を俺は知ってる。



〝—————————あんたなんか、〟



「………〝いなくなれ〟、だろ」


 伝えたいことはわかる。身内ですらそういう。価値のない、意味のない、いらない、存在。消えてしまいたい。それなのに、どっかのバカは、何も知らずに、昔の俺みたいに、夢を語る。前を向こうとする。そんなの全部まやかしだろ。嘘だろ、その場しのぎの言葉だろ。だから壊した。全部嘘なら本当なんかどうでもいい。全部全部消えろ。いなくなれ。


—————————いなくならないで


 それなのにまだ。今でもあの言葉が、心が、本当だって信じたがってる自分がいる。













 ☁︎


「もしもし俺。あぁ。見つかった、うん、メッセージ見た? そうそう。連絡出来そ? 悪い」

 頼むわ、はーい。


 雨が上がり、鼻先をペトリコールが掠める。パーカーを羽織って住宅地を歩いていた私は、同じく隣を歩きながら、スマホに話し掛けていた藤堂(とうどう)先輩を恐る恐る見上げた。

 目が合うと、彼は通話を切るなりスマホを掲げる。

智也(ともや)
「怒ってました?」

 先輩はスマホをしまうと、両手で頭の上に角を作ってみせる。

「激おこ」
「やっぱり…」
「なーんてな。あいつはんなことで怒ったりしねーよ」

 ま、ちぉっと心配してたけど?

 親指と人差し指でうっすい感覚を作って面白おかしく笑うその人と、ついさっきまで大通りの真ん中で泣き噦る私を真剣に(なだ)めていた彼が同一人物だとは思えない。でも喉が枯れるまで泣いてからからになった口も、私を車から助けるために先輩が腕に負った傷も、確かにそこにあって。

 それがこれまでに起こった全てを、夢ではないと証明している。