…う

 どう


「———藤堂!」

 名前を呼ばれて、意識が現実に引き戻される。

 今は4限目、数学Ⅲの授業中。ハッとして前を向くと、教卓の前で指示棒を持ったままの数学教師・通称原センが眉を吊り上げ仁王立ちしていた。その際、クラスメイトたちの視線を一人占めにして。


「指定関数の積分漸化式!わかるか」

「…え、」

「わかるよな!?」


 指示棒で起立するよう促して、そうまくし立てる原センに弁解の余地は無さそうだ。いつもならここで空惚ける藤堂も、そのときばかりは黒板に滑る文字、その一通りを素直にじっと見た。そして左から右までそれを目にすると、半分無意識で口にする。


「…0」

「………」

「………え、間違ってます?」

「正解だ馬鹿!」

「いやじゃあなんで馬鹿呼ばわり」

 普通間違えるところだろここは! とか何とかぶつくさ文句を垂れる原センが意地になってじゃあ次、と黒板消しを手にした瞬間、タイミングよく授業終了のチャイムが鳴り響いた。


 ☁︎


「さすがだな」


 昼休み。食堂にて定食を頼んでおきながら、食事に全く手を付けず机と睨み合う藤堂に、B定食を注文した智也はお盆を持ったまま向かいの丸椅子に腰掛けた。

「さっきの問題数学の原センがお前に嫌がらせして出した大学入試レベル。
 お前に当てる前生徒会長に当ててたけど答えらんなくて歯、食い縛ってたよ」

「…」

「藤堂?」

「え? あ、おー…そうだな、俺も食堂メニューだったらA定食(セット)が一番すき」

「…おれはB定食(セット)かな」