見てくれの割に仕事の出来るらしい男は、一週間と経たないうちに父親の居場所を特定した。

 黒髪、長身。都内にある大手メーカーで総務を担当していること。見せられた写真は健康で快活で、ちっとも俺に似てなかった。

 今思えば、考えなしに思い立って行動するバカほど愚かなものはないと思う。なんで会いに行く必要があったのか、その必要性を重んじてなかった。
 金が欲しいとか。助けて欲しいとか。そんなんじゃなかった。

 ただ。


 ただもし一目あったら、そいつは。

 どんな顔して俺を出迎えるんだろうって、その一心で。






「…総務の…遊佐(ゆさ)さん、いますか」

「アポはお取りになられてますか?」

「…いえ」

「…えっと…でしたらお取り致しますので、本日はまた日を改めて」

「と噂をすれば遊佐さんきたわよ」

 土曜日、会社のロビーで。受付に居所の悪さを感じながら対応していると、隣にいたもう一人の受付が入り口を指差す。そこで俺は。


 その時初めて、自分を構成する片割れの血を見た。


「遊佐さーん、お客さんです、男の子」
「えー、男…?」

 スーツ姿に背筋の伸びた、背の高い黒髪。顔は、可もなく不可もなく、だったと思う。すぐ目線を逸らしたら、男は何かを察したように、すぐ手で俺を誘導した。
 ロビーのソファに座って、足を組む。その振る舞いでもう、なんとなくわかった。言葉にしなくてもわかった。



「息子?」


 あぁこいつ、嫌なやつだって。

 柄にもなく緊張する俺に男は俺を上から下まで見て、場所が場所だけにある程度小奇麗な格好をしてきたつもりが、眉を顰められた。そして、口籠ってる間にまた男が喋る。


「金か」

「…な」

「や、だっておれ別にお前に感動される筋合いないもん。顔も知らんし。けど人ってすげーな、やっぱ子どもってデカくなるんだー」

「…」

しくじって(・・・・・)デキたーって時は頭抱えたね。堕ろそうぜ、ってずっと話し合ってたんだぜ? なのに最後の最後であいつが意見ひっくり返してさぁ。それまで困るとか嫌だとかずっと言ってたのに、お前いなかったらおれあいつとまだうまくやれてたんじゃねーかな。体の相性良かったし、タイミングさえミスらなければ」