ガラ、と店の扉が開く。ビニール袋を引っ提げた成美を見ると、凛は無邪気におばさん! と声を上げた。


「やー♡ 凛花ちゃん来てたのー! あいっかわらずほっぺたぷにぷにー! うりうり〜! お目目くりくり天使〜♡ 栄介。卵冷蔵庫入れといて」

対応(こえ)変わりすぎだろ」


 「プリンあるよ、お食べ」といって凛と並んでいると、俺よりよっぽど本当の家族みたいにも見えて、それだけであんな風に笑ってんなら無理に父親を探す必要もないと思う。それに。父親を探す、三人家族になる、そして久しぶりの再会に感涙する、なんて。

 そんなのは、きっと成美が望んでない。


 ☁︎


 一番金が嵩む時、俺の小中進学を乗り越えてきただけに油断していたけれど、その頃家計は予想以上に火の車だった。
 一口で不景気といってしまえはまだ容易いが、元々週6で店に出ていた成美は少しでも稼ぎを増やすために本来休みの日曜も店を開け、忙しくても人を雇う金がないから必死に一人で切り盛りしていて。

 その頃、学校からの目が届かないのをいいことに俺は何度か店を手伝っていた。とは言っても中学生が出来ることなんか知れているので、軽い配膳や料理の提供、食器を洗ったりとかその程度だったけど。


「…お通しです」

 小皿をカウンター席に置くと、赤い顔で酒を堪能していた小太りの客がしゃっくり混じりに顔を上げた。

「———あれ? なるちゃん、何この子? 雇ったの?」

「あー、今だけちょっとお手伝い」
「新しい彼氏?」
「やっだ! 違うわよ〜! これあたしの息子!」


 いや、それ言っていいんか。

 案の定他の席にいた客もえぇっ、と声を上げてこっちに殺到してくる。まじまじと人の顔見てくんな。暑苦しいんだよ散れ。

「ほへぇ〜! なるちゃんこんっなおっきな息子いたの!? 年いくつ!?」

「…14」
「未成年じゃん! 働かせちゃダメでしょ!」
大徳(だいとく)さん、そこはシーッ! 昔の馴染みでしょお〜?」


 ビール一本サービスするから、とそんな余裕もないくせに墓穴を掘ってる母親(バカ)にうんざりする。俺は視線から逃げるように洗い場に移動して、成美は酒の追加を取りに裏へ戻った。

「や〜しかし…あのなるちゃんがねえ。若いしいつまでも別嬪(べっぴん)だからまさか子どもいるなんて意外だったよな、バツイチってこと?」

「秘密知っちゃったよね〜。それを理由に強請(ゆす)ってみたら、昔みたいにご奉仕してくれたりすんのかね」

「いやいやもう年齢的にキツいっしょ! それなら若さ重視で息子くんに頑張ってもらっちゃおっかな〜?」

「息子くんに息子を可愛がってもらうんか! 上手いこと言うね! ゲハハ」