「オズちゃん」

 ベッドのすぐ横だった。丸椅子に座ってうなだれていた先輩が、顔を上げて身を乗り出す。このひと、私の目が醒めるまでずっとここにいたのか。ゆっくりと起き上がる私に、先輩は事情を把握したのか敢えて手を貸そうとしない。いい傾向、なんて私は貴方を(たしな)めているのに、
 起き上がった私に、彼は心底ホッとした様子で胸を撫で下ろした。


「………オズちゃん、ごめん俺、」

「ひとつだけ」

「え?」

「ひとつだけ、お願いしてもいいですか」


 聞く耳を持つ必要はない。だって全部無意味だ。価値も理由も、結局何も見出せない。だから自分から相手の言葉を遮った。まだ本調子ではない体では世界が靄がかって見えて、それでもこの言葉を放てば、霧が晴れる気がした。











「もう、私の前に現れないでください」