「…おわっ、たー…」



 昨日は途中で寝こけてしまったから、今日1日で残りの課題全てを終わらせよう。そう意気込んで図書館の机に向かうこと、およそ5時間。
 ノートを閉じ、ぐっと伸びをして時計を見ると、気付けば時刻は14時を回っていた。
 道理でさっきからお腹がよく鳴ると思った。お昼も食べずにぶっ通しで課題に励むほど私は勤勉だったのか。いや違う。理由なんて一つだけ。何かに没頭して忘れたいことがあったからだ。

 けど、家には帰りたくない。

 ぐう、と私の腹の音が返事をして、机に突っ伏す。いっそこのまま今日、帰らなかったらお母さん怒るかな。駅前のネカフェとかでいくらでも時間潰せるんだけど。それともやっぱり女一人だけでは厳しいのだろうか。

 そこでスマートフォンが唐突に振動(バイブ)して、びくりと体を揺らす。時間は図書館の時計で確認していたから気付かなかったけど、そのときになって初めて朝から4回も同一人物から連絡が来ていることに気がついて、私は目を見開いた。


 ☁︎


「俺のラブコールフル無視とはいい度胸だな」


 電話するのが面倒でメッセージで居場所を告げたら、駅前のカフェに来いと呼び出しをくらった。私からすれば、この重たい荷物を持ってる私を駅前まで呼び出したあんたの方がいい度胸だと言ってやりたい。
 先にカフェの奥の方の席に座っていた藤堂先輩は、姿勢を正して腕組みをしたまま、私が向かいに座ると冒頭の台詞を吐いた。

「図書館で宿題やってたんです」
「あ、そんで鞄デカいのね。言ってくれたら迎えに行ったのに、重かったろ」
「あんたが呼び出したんでしょう。そんなんじゃ悪い女のひとに引っかかっちゃいますよ」
「だとしたらもう引っかかってるっつーのっていだだだだだだ!!!」

 うそうそうそ! と叫ぶ先輩の足を思いっきり踵でぎゅうりいいい、と踏み躙ってやる。そこで、腕組みを解いて悶絶する彼の手のひらに目がいった。

「先輩」
「ん」
「手、どうしたんですか?」

 先輩の左手には、手のひらを覆うように包帯が巻かれている。カラオケのときはそんなの無かったはずなのに。

「あーこれ? 俺としたことが調理中うっかりたこ焼き機に手ぇ突っ込んじゃった☆」
「なんで明後日の方向向いて言うんです」

 私こっち、と指差すのに通りかかった女性従業員(ウェイトレス)に笑顔を振りまいているから意味がわからない。てか絶対口説きたかっただけだろあんた。満更でも無い様子で頰を染める女性に手を振って先輩が向き直ると、歯切れのいい舌打ちを一つ、くれてやる。